第19話 ユーナは男を魅了する
油断と傲慢は命取りになる。
ルル先生からは慢心するなと口酸っぱく言われた。
だから俺は油断しない。
バカっぽい作戦を立てるのであれば、俺とルシタファの構成員の四人で崖を飛び降りてそのまま洞穴に突撃しようとするだろう。
が、残念ながら俺たちは相手の強さを理解していない。
仮に洞穴に突撃した瞬間にSクラス冒険者レベルの人間が現れたとしたら、俺たちはお陀仏だ。
急がば回れという言葉を俺は前世で耳にした。
あえて最短ルートはとらずにじっくりと丁寧に洞穴に接近して敵の出方を見ようと思う。
そんな俺の考えを彼女たちに話した俺だったが。
「なんか地味だし……」
「そこまで慎重に動く必要はないにゃ」
「私、お兄ちゃんのもっと派手な戦いが見たいよ」
俺の作戦に対する彼女たちの評価は散々なものだった。
なんだよこいつら……。
こいつらは全員、俺のことを舐め腐った結果、気を抜いて俺にまんまと捕らえられた奴らである。
「慢心した結果、俺ごときを捕まえられなかった奴らの言葉に説得力はねえな」
と、返してやると、誰一人として反論をしてこなかった。
どうやら俺が思っていた以上に、俺の言葉は彼女たちの心に突き刺さってしまったようだ。
ということで最強正論パンチで彼女たちを黙らせることに成功した俺は、急がば回れ作戦で盗賊の殲滅をすることにした。
とりあえず俺たちは遠回りをして山を下りて敵のアジトの側まで接近すると、アジトを守る手下どもらしき人間を数名を観察することにする。
そんな中、バンダナで顔を隠した手下の一人らしき男が、首輪を付けられた数名の女を引き連れてアジトへと向かって歩いて行くのを見つける。
彼女たちにはみんな美女で大きく肌の露出した水着のような服装をしていた。
首輪を付けた女を連れて歩く男……なんだろう妙に親近感がわく……。
が、その男の目的は俺とは大きく掛け離れていそうだ。
おそらく街から美女を捕らえてきたのだろう。
そういえば受付嬢のおねえさんが奴らは人さらいもするなんてことを言っていた。
彼女たちは街で捕らえられて、盗賊団のトップの男に彼女たちを献上するつもりか、彼女たちを売って金にしようとしているに違いない。
ならば……ということで、俺はミユたちをその場に待たせると背後から手下の男に近づいていく。
そして、ナイフの柄の部分で男の後頭部をコツンと叩いてあっさり気絶させると、ミユたちに手招きをした。
ぞろぞろと木の陰から姿を現すルシタファのバカどもの姿に、捕らえられていた美女たちは動揺したように顔を見合わせていたが、人差し指を口に当てて彼女たちを黙らせる。
「俺たちはきみたちを助けに来た。とりあえず俺たちの言うことを聞いていれば自由にしてやるからしばらく静かにしていろ」
そう言うと彼女たちは動揺したように顔を見合わせてコクリと頷いた。
ミユたちに彼女たちの監視を任せると、俺は気絶した手下の男を木の陰へと連れて行き、男の衣服を剥ぎ取ると自分の服と交換する。
男の衣服を身に纏ってミユたちの元へと戻ると、三人はなにやら冷めた目で俺を見やった。
「お兄ちゃんがなんか小者っぽく見えてきたよ……」
「全然似合ってないし……」
「こんなみすぼらしい格好の奴に捕まったと思うとプライドがズタズタにゃ……」
こいつら全員ぶっ殺してやろうか……。
盗賊団の手下に扮した俺に散々な言いようの彼女たちに軽く殺意を覚えながらも俺は説明を始める。
「とりあえず手下を装ってアジトに入ろう。お前らは彼女から首輪を貰って攫われてきた美女のフリをしろ」
ということで、ポケットに入っていた鍵で美女たちの首輪を外してやると、ミユとジュジュ、それからユーナの三人に首輪を付けるように指示を出す。
そんな俺の指示にユーナとジュジュは文句を言い、そしてミユはなぜか嬉しそうに首輪を付けた。
ジュジュに猫語で猫たちに美女三人を麓まで案内するように指示を出して貰うと、彼女たちは俺にお礼を言って猫と一緒に山道へと消えていった。
よし、これで準備完了だ。
三人のバカのリードを掴むと俺たちはアジトへと向かって歩いて行くことにした。
それから山道をアジトへと向かって歩いていた俺たちは、その間に何人かの盗賊団の人間らしき男たちとすれ違った。
正直心臓が口から飛び出しそうなほどに緊張したが、バンダナで顔を隠していたこともあり、俺らのことを不審がる奴はいない。
その結果、あっさりとアジトである洞穴の前へとやってきた……のだが。
「止まれっ」
そのまま洞穴へと入ろうとした俺たちは、洞窟前に立つ槍を持った守衛の男に止められる。
「通行所を見せろ」
と守衛の男が俺にそんなことを求めてくるから焦ってしまう。
「つ、通行所?」
「当然だろ。さっさと通行所を出せ」
ま、まあここは盗賊団のアジトなのだ。そう易々と中に侵入できるのであれば、とっくに盗賊団は殲滅されているはずだ。
ということで、俺は慌ててポケットをまさぐる。すると、胸ポケットにカードのような物が入っていたので、それを守衛の男に見せた……のだが。
「ん? お前準構成員じゃねえか。ならば、ここから先に通すわけにはいかない。女を渡してさっさと失せろ」
と、あからさまに俺を蔑んだ目で見やると「しっしっ」と手で俺を追い払おうとする。
どうやら俺が気絶させたあの男は正式メンバーではないようだ。よくわからないが、準構成員ではアジトの中に入ることはできないらしい。
が、それでは困る……。
守衛の言葉にあたふたしていると、守衛の男は俺に顔を接近させて睨みつけてきた。
「俺の言葉が聞こえなかったのか? お前はここで用済みだ。さっさと失せろ」
「え? あ、いや……なんとういうか……」
「ちょっと待ってだし……」
と、そこでユーナが俺と守衛の間に割って入ってくる。
「ああ? なんだ?」
突然口を挟むユーナに守衛の男は訝しげに首を傾げる。
が、そんな男に一切怯む様子もなく、ユーナは守衛の前に立ちはだかると男をじっと見つめた。
直後、彼女の体から凄まじい魔法波が放たれるのを俺は感じた。
「あーしたちはアジトの中に入りたいだけだし」
「え? で、でも……アジトの中には構成員しか入れないのだ……」
「どうして? あーしたちは怪しい者じゃないし」
「た、確かに怪しい者ではないな……」
ん? なんだなんだ?
さっきまで俺を蔑んでいたはずの守衛の男は、ユーナの言葉になにやら歯切れの悪い返答をする。
準構成員が連れてきた奴隷相手になんという腰の引けた対応だろうか?
普通に考えればありえないな。なにかやたらと魔法波を体から放っているし、彼女はなにかしらの能力を使用しているのだろう。
現にユーナの瞳は守衛の男をじっと見つめたまま、瞬き一つしようとしない。
「あんたはあーしのことが嫌い?」
「嫌いじゃない」
「だったら、どうして通してくれないし?」
「それはその……」
「あたしのことが好きならば、アジトに通して欲しいんだけど」
「わかった。通そう」
守衛の男はそう言うと俺たちから体を引いて、洞穴への道を空けた。
「なにがどうなればこんなことになるんだ?」
ユーナにそう尋ねると、彼女は「あたしが可愛いからだし」とわずかに笑みを浮かべて俺たちを置いて洞穴の方へと歩いて行った。
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