第18話 アジト発見

 結局、ギルドのおねえさんに依頼書を再び手渡した俺たち一行は猫数匹に先導してもらいながら山を目指して歩いて行くことになった。


「…………」


 ミーミーと前足で方向を指さしながら歩く猫を眺めながら俺は素直に思う。


 情報量が多すぎてついていけねえよっ!!


 なんだよこの集団。


 その中心を歩いている俺が言うのもなんだけど、俺たち一行は目立ちすぎる。


 まずは二本のリードを握った俺と、その先には首輪を付けたギャルと猫女。


 さらには俺の腕をミユが抱きついており、そんな俺たちを数匹の猫が先導している。


 目立つなんてレベルじゃないんだわ……。少しでも目立たないように行動したい俺の本望じゃないんだわ……。


「そんなに恥ずかしいなら首輪を外せば良いにゃ」


 そんな俺の心を見透かすようにジュジュが俺の顔を見上げた。


「ああ? お前そんなこと言って逃げるつもりだろ?」

「今更逃げたりなんてしないにゃ」

「それはどうだか?」

「いずれにせよ山に入ったら私たちを解放しなきゃ勝てないにゃ。いくら相手が雑魚とはいえEランク冒険者のウィレムが勝てる相手じゃないにゃ」

「まあ、それもそうだ」


 前回の糸吹きアナコンダの討伐で俺は晴れてEランク冒険者になった。


 が、Eランクになったとはいえレベルの低さに変わりはなく、相手がCランクやBランクだということを考えれば無謀な戦いである。


 そうなると必然的にジュジュやユーナの力を借りざるを得ないというのが実態だ。


 俺には時間がない。一分一秒でも早く王国を脱出しなければ、ルシタファのさらなる追っ手がやってきてしまう。


「逃げないだろうな?」

「逃げないにゃ。私だって目先のお金が必要にゃんだし協力するにゃ」


 ということなので俺はミユにユーナのリードを預けると、ポケットから鍵を取り出してジュジュの首輪へと差し込む。


 こいつのことは一ミリも信用できないけれど、この依頼を受けた以上力を借りるほかない。


 そう言い聞かせて魔法石が装着された彼女の首輪を外してやった……のだが。


「バカにゃっ!!」


 首輪を外した瞬間、彼女はニヤリと意地悪な笑みを俺に向けた……と同時に俺の目の前から姿を消した。


 何かの比喩表現ではない。俺の前から瞬間移動のように姿を消した。


 逃げられた。


 いや、そんな気はしていたよ。絶対逃げると思っていたさ。


 だから、俺は首輪を外した瞬間から彼女の放つ魔法波を補足しておいた。


 目の前から姿を消したジュジュだったが、魔法波は街の建物や人々に反響して確実に俺の元へとやってくる。


 さんざんルル先生とこの鍛錬は積んだからな。


 幸いなことにジュジュは魔法波を隠していないようで、魔法波の発生源を西方に建つ背の高い時計塔の屋根の辺りに感じた。


 どうやらあそこに身を隠して俺たちがいなくなるのを待っているようだ。


「あの時計塔の上だな?」


 ミユに確認を取るとミユは少し驚いたように「そうだよ。よくわかったね」と目を見開いた。


 とりあえずもう一人のバカをミユに任せると、俺は地面を蹴って近くの建物の屋根に乗り移って、最短ルートで時計塔へと向かうことにする。


 建物の屋根にぴょんぴょんと飛び移っていき、時計塔のすぐ側の石造りの屋根へと飛び移ったところで、膝を思いっきり曲げて真上に跳躍すると俺の体が宙を舞った。


 瞬く間に小さくなっていく建物の屋根と、視界に広がる街の全貌を眺めながら宙返りをすると街がくるりと視界の中で一回転して、気がつくと目の前に時計塔の高い屋根が迫っていた。


 三角形の煙突のような時計塔の屋根にしがみ付くと目の前に、同じく屋根にしがみ付くバカ猫の驚愕の表情が見える。


「ど、どうしてわかったにゃっ!?」

「どうしてだろうな?」


 いや、そりゃそんだけ魔法波をぷんぷんにしていたらいやでも場所ぐらいわかるだろ……。


 そんな俺の呆れに気づく様子もなく、彼女は驚きと恐怖にわずかに体を震わせていた。


「とりあえず一発ぶん殴って良いか?」


 懐からナイフを取り出すと彼女の返事を待たずに柄の部分で彼女の頭頂部をぶん殴る。


「にゃにゃっ!? 痛いにゃ……」

「うるせえ。殺されなかっただけマシだったと思え」


 ということで、彼女の首根っこを掴むと再びジャンプをして時計塔から飛び降りると、ミユの元へと戻った。


※ ※ ※


 その後、俺たちは猫の案内によって山道を進むことにする。


 とりあえずジュジュを捕獲できたことにより、こいつらが俺の想像ほどは強くないことがわかった。


 逃げたとしてもすぐに捕らえられる。そう確信した俺はユーナの首輪も外してやり盗賊団のアジトへと向かう。


 あ、ちなみにジュジュはその後も山に入った直後と、山の中腹で一回ずつ逃走を図ったがすぐさま捕まえて連れ戻すと「に、逃げられないにゃ……」と絶望したような顔をして逃走を諦めてくれた。


「な、なんでそんなに強いし……」


 そんな俺たちの逃走と捕獲を眺めていたユーナはドン引きの表情で俺を眺めるだけで逃げようとはしなかった。


 ということで山の山頂近くまでやってきたところで、猫は不意に足を止めて前足でどこかを指さす。


「アジトに近づいたらしいにゃ……」


 頭頂部にたんこぶを付けたジュジュがそう言うので、俺は人差し指を口に当ててみんなを黙らせると、とりあえず草木をかき分けて進んだ。


 するとそれまで草木で覆われていた視界に青空が広がる。


 俺が立っていたのは崖の真上だった。視界に広がるのは抜けるような青い空と、眼下には生い茂る木々の葉。


 顔を崖の真下へと向けると、その部分だけわずかに木々が切り開かれている場所があり、そこから強い魔力波を感じた。


 一度その場にうつ伏せになって顔だけを崖から出すと、数名の槍を持った男が二人、崖を守るように突っ立ているのが見える。


 よくよく観察してみると、崖の岩肌には大きな穴が開いていた。


 どうやらこの穴が盗賊団のアジトのようだ。それを証明するように洞穴の中で反響しまくったであろういくつもの魔法波が穴から飛び出して、近くの木々に乱反射しているのを感じる。


 それどころかアジト周辺の木々からは小さな魔法波が複数確認できた。


 おそらく、アジトを守るように防御戦を張っているのだろう。


 相手の強さはわからないけれど、ここは崖から飛び降りて一気に洞穴に突入するしかなさそうだ。


 ということで俺は再びミユたちの元へと戻ると盗賊団殲滅作戦の詳細を彼女たちに話し始めた。

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