第17話 猫の手も借りたい
彼女たちはろくに金を持っていなかった。
ミユに頼んで彼女の体中を調べさせたが、出てきたのはせいぜい宿屋に一泊泊まれる程度の金だけだった。
というわけで……。
「二度との俺の前に面を見せるんじゃねえっ!!」
「「「「すいませんでしたっ!!」」」」
とりあえず宿屋のおっさんに事情を説明した俺だったが、当然のごとくおっさんは激高、結局俺はせっかく手に入れた糸吹きアナコンダの報酬と二人の有り金をおっさんに差し出してなんとか解放された。
あ、ちなみに侵入してきた二人の分の宿泊代もきっちり請求されました。
ほんとぶち殺してやりたい……。
宿屋のおっさんから出禁通告を受けて追い出された俺たちはギルドへと向かって歩いていたのだが……。
こ、これはビジュアル的に色々とヤバすぎる……。
道行く人々が俺たちを奇異の目で眺めてくる。これは逃走する者として致命傷な気がするぞ……。
彼らが俺たちを奇異の目で見る理由。
それは主に首輪に繋がれた美少女二人のせいである。
片方はどう見てもギャルにしか見えない美少女。
名前はユーナというらしい。
そしてその隣を歩く猫耳の美少女。
こっちはジュジュというらしい。
そんな彼女の首輪から伸びたリードを掴む俺と、その俺の腕にしがみ付くミユ。
その一見男のロマンのようなハーレムな光景は、街ゆく人々の視線を釘付けにするには十分すぎるインパクトがあった。
マジで勘弁してくれ……。
美女をはべらせて歩く王様のような光景だが、いや実際に王子様ではあるがこの姿は俺の望む姿ではない。
何度でも言うが俺は逃走中なのだ。できる限り人目につかないように隠密行動を続けたい。
が、当然ながらユーナとジュジュを野放しにするわけにもいかないし、かといって殺すこともできない以上彼女とともに行動するほかないのだ。
それにこいつらからは修繕費のために支払った金を耳を揃えて返して貰う必要がある。
「おい猫っ」
ということで恨みのこもった声でジュジュに声をかける。
「な、なんにゃ……」
「お前、食用か?」
「にゃっ!? なんでそんなこと聞くにゃっ!?」
「はて? なんでだろうな?」
とりあえずこいつを直接殺すのは良心が痛むが、売り飛ばしたあとのことは知らない。
もしもこいつに食用の需要があるのならば、俺は真っ先に食肉店にこいつを連れて行く。
そんな俺の質問にジュジュは身震いしながら首を横に振った。
「お、美味しくないにゃっ!! わ、私なんて革と骨しかないゲロマズ肉だにゃ。だから、売ってもお金になんてならないにゃ……」
ということらしい。さすがに魔物は食っても魔族を食う人間はいないか……。
次にユーナに視線を向けると、彼女はさっきのジュジュとの会話を聞いていたせいか引きつった笑みを浮かべていた。
「お前はどこに売り飛ばせば金になるんだ?」
そう尋ねるとユーナは身震いして胸元を両手で隠す。
「あ、あーしは初めての人は恋人に捧げるって決めてるし……」
「さっき命乞いで俺を誘惑してきた女とは思えないな……」
「そ、それはその……あのときはちょっとパニックになっちゃっただけだし……」
とりあえず二人には下手な真似をしたらどうなるかをわからせておく必要がある。
二人の震え上がった姿を見るに一定の効果はあったようだ。
ということで俺は三人の邪魔者を連れてギルドへと向かうことにした。
※ ※ ※
ということでギルドへとやってきた。
ギルドに入った瞬間、受付嬢を始めとしたギルド内にいた人間全てがドン引きの表情で俺を見やったが気にしないことにする。
とりあえず金を稼ぐためにはギルドで仕事を探すしかない。
というか金を稼がなければ今の俺たちは野宿……どころか晩飯すら食うことができなくなる。
ということでギルドに入るなり、少しでも報酬の高い依頼を探していく。
「お兄ちゃん、こういうのはどう?」
「ん? なになに? ……確かに報酬はかなりいいな……」
そこに書かれた報酬には昨日の糸吹きアナコンダの一〇倍以上の報酬が書かれていた。
が、この依頼には問題がある。
「いや、さすがに盗賊団の殲滅は難易度が高すぎる……それにこれAランクだし」
確かミユのランクはBランクだったはずだ。これだけの報酬があれば一気に港町ガダイにたどり着けそうだけど、そもそも受けられなければ意味がない。
ん? 待てよ……。
と、そこで俺は首輪に繋がれたバカ二人を見やる。
「お前らギルドカードは持っていないのか?」
「え? も、持ってるし……」
「持ってるにゃ……」
「出せ」
ということで二人からギルドカードを徴収して確認する。
うむ両方ともAランク冒険者だ。
さすがは王国が雇ったルシタファだ。ミユを含めてそれなりの人材が揃っているようだ。
一応依頼は受けられそうだ……が。
「とりあえずおねえさんに聞いてみるか」
ということで俺たちは依頼書を持って受付に向かうと、おねえさんに色々と聞いてみることにした。
とりあえずおねえさんから聞いた説明は以下の通りである。
この依頼書に書かれている盗賊団は山奥にある洞穴をアジトにしている五〇人規模の集団らしい。
なんでも時折山から一団が降りてきて商店街を荒らし売上金や、宝石などを略奪して暴力や殺人も厭わないんだって。
そんな話を聞いたら震えるよね……。
確かに値段は魅力的だ。が、返り討ちにあったら元も子もない。
それに一団にはCランクやBランク冒険者相当の実力者が複数人いるらしいし……。
ジュジュとユーナは首輪を付けているので実質的な戦力は俺とミユだけだということを考えればとてもじゃないが勝ち目はない。
「あ、やっぱり止めときますわ……」
俺は愛想笑いを浮かべておねえさんにそう伝えると依頼書を元あった場所に戻そうとした……のだが。
「受けないのにゃ?」
そんな俺にジュジュが問いかける。
「いや、さすがに危険だろ。相手は五〇人規模だし、CランクやBランク規模の奴もいるって話だぞ?」
「CランクやBランクなんて雑魚にゃ。そんな有象無象が五〇人いたところでなんになるにゃ。はっきり言って奴らの殲滅なんて簡単にゃ」
「おうおう、簡単に言ってくれるじゃねえか。いくらCランクBランクって言ったって相手は複数人なんだぞ? そもそもまだアジトの場所も掴めていないらしいし」
「それならすぐに見つかるにゃ」
そう言ってジュジュはなにやら指を咥えると「ピーっ!!」と指笛を鳴らした。
「は? なにやってんの?」
「ちょっと待ってるにゃ」
とジュジュが答えてから数十秒。どこからやってきたのだろうか、ぞろぞろとギルドの入り口から猫が一匹、また一匹とやってきて、気がつくと俺たちの周りには一〇匹ほどの猫が集まっていた。
「なんじゃこりゃ……」
「呼んだにゃ」
そう言うとジュジュはその場にしゃがみ込んで、猫の頭を撫でながらなにやら「にゃにゃにゃ」と猫語を話し始める。
そして猫のミーミーという返事を聞くと立ち上がって俺を見やった。
「アジトは山の中腹辺りにあるらしいにゃ。この子が案内してくれるらしいにゃ」
ということらしい。
どうやらこいつは動物と会話ができるようだ。
おそらく俺の居場所を探し当てるのにもこの能力を使ったのだろう。
「どうするにゃ?」
「どうってさっきも言ったけどさすがに五〇人を相手にするのは」
「私とユーナがついてるにゃ。この首輪さえ外してくれれば協力するにゃ」
「いやんなことしたらお前ら逃げるだろ」
「そんなことないにゃ。それに……」
と、そこでジュジュはなにやら意地悪な笑みを浮かべる。
「ウィレムは早くお金を貯めて王国を脱出したいに違いないにゃ。うかうかしていたら捕まっちゃうかもしれないにゃ」
どうやらこいつは俺の足下を見てきているようだ。
あくどいな……。
が、確かに彼女の言うとおり、今すぐにまとまった金が欲しいのは事実だ。
と、そこでミユが俺のそでをくいくいと引っ張る。
「もしもこいつらが逃げても私が匂いですぐに場所を特定するから大丈夫だよ?」
「なるほど……」
結局、俺はそのあともしばらく考えてジュジュの提案に乗ることにした。
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