第16話 ルシタファの面々は仲が悪い
清々しい朝を迎えた。
「お兄ちゃん、清々しい朝だね」
「そうだな。朝日がよく差し込んで気持ちがいい」
「今日はなんだかいいことが起きそう」
「そうだな」
うむ、本当に清々しい朝だ。
カーテンレールがぶっ壊れたことによって、もろに日光が部屋に差し込んで眩しいし、窓もないからそよ風が室内に吹き込んできて朝であることをしっかりと認識できる。
ベッドが結露のせいで湿っているのは少し気になるけれど、それはご愛敬だ。
さて……俺たちは宿屋のおっさんからいったいいくら請求されるのだろうか?
いや、さすがにこれは俺たちは悪くないよな。
なんというかこれは隕石の飛来のような不幸な事象だ。もしも修理代を払うべき人間がいるとしたらそれは俺たちじゃなくて……。
ベッドから状態を起こした俺は床へと目を落とした。
「ふがっ!! ふがふがっ!!」
「ふががっ!! ふがふがっ!!」
昨夜、俺の元にパラグライダーで襲来し、勝手に気絶をして捕らえられた少女二人はどうやら俺たちよりも先に目を覚ましたようで、縛られた体をもぞもぞさせながら俺に必死に何かを訴えかけようとしていた。
が、彼女たちの口はタオルで縛られているせいで思うように言葉を発することができないようだ。
そんな二人を見て俺はさっきまでの茶番現実逃避を止めた。
いや、どうするんだよ……これ……。
あぁ……頭が痛い……。
その現実逃避したい光景を呆然と眺めていると、昨夜同様いつの間にか俺のベッドに潜り込んでいたミユが俺の寝間着の袖を引っ張る。
「お兄ちゃん、こいつらはお兄ちゃんのことを狙っている悪い奴らだよ」
なんて彼女が口にした瞬間、ギャルのような女と猫耳の女はビクッと体を震わせて慌てて首を横に振った。
どうやら違うらしい……信じないけれど。
「こいつら……どうしようか……」
なんて心中を吐露しているとミユはなにやら意地悪な顔をする。
「こいつらを生かせておいたら危険だし、殺した方がいいんじゃないかな?」
いや、ホントどの口が言ってんのか。
その容赦ないミユの言葉に二人は、今度は体を震わせながらさらに激しく首を横に振った。
ま、まあ、さすがに女の子二人を殺すのは俺の倫理観が拒否反応を示してしまう。
いや、その倫理観さえなければ二人を殺して逃走を継続することができるのだけれど、この辺は前世での価値観が邪魔をしてしまう。
その倫理観のせいで俺の選択肢が狭まっているのだ。
殺さなければこいつらはアジトに戻って俺の居場所を告げ口をする。かといってこいつらを連れて逃走を続けるのは重荷過ぎるしな……。
ま、まあ、とりあえず二人から色々と事情を聞き出そう。
ということで俺はベッドから降りてガラスを避けながら、二人の元に歩み寄ると彼女たちの口を覆ったタオルを外してやった。
「にゃあ…………」
「鼻炎気味だから窒息するかと思ったし……」
などなど二人はそんな感想を述べてから俺を見上げた。
「おい」
「な、なによ……」
「なんだにゃ……」
「お前は俺を殺しに来た刺客か?」
そう尋ねると彼女たちは慌てて首を横に振った。
「そ、そんなことないしっ!! あーしたちはただの通りすがりの旅人だし……」
「そ、そうだにゃ……。ちょっとグライダーで旅行をしてたところ運悪くこの部屋に突撃しちゃっただけだにゃ……。それなのに縛るなんてひどいにゃ……」
などと二人は供述しているが、ミユが言っていた通りこいつらはルシタファの一味だろ。
とりあえず俺は懐から短刀を取り出すと、わずかに鞘から刃を出して見せた。
すると二人の表情は青ざめて瞳に涙を浮かべる。
「ほ、ほんとだしっ!! 信じてってばっ!!」
「本当のことを言わなきゃ問答無用で頸動脈をスパッといくぞ」
「はわわっ!! 言いますっ!! 言うからそんな怖いもの見せないでってばっ!!」
どうやら話す気になってくれたようだ。
ということで俺は彼女たちから色々と事情を聞くことにした。
その結果わかったこと。
まずはこいつらはルシタファの一味であることを自供した。なんでもまたシルクとかいうおばさんにそそのかされて俺を捕まえるように命令されていたようだ。
あくまで俺を殺すつもりはないようで、俺を城に連れ戻したいだけらしい。
まあ連れ戻されたところで殺されるのは目に見えているけどな。
「あーしたちのことをどうするつもりだし……」
「私たちまだ死にたくないにゃ……まだやりたいこといっぱいあるにゃ……」
「お兄ちゃん、殺しておいた方が安全だよ?」
俺に命乞いをする二人と、冷酷に二人を処分した方がいいと、どの面下げて口にするミユ。
「言っておくけど殺すという決断をしたらお前も殺すからな」
と、強めの脅しをするとミユはあっさり口を噤んだ。
頭を悩ませる俺に猫女がなにやら体をもぞもぞさせながら俺の元へと近寄ってくる。そして、なにやらぽっと頬を赤らめるととろんとした目で俺を見上げてきた。
「も、もしも許してくれるなら、気持ちいいこといっぱいするにゃ……」
なに言ってんだこいつ……。
どうやら俺を誘惑しようとしているらしい。
そんな猫の先手にギャルは「ちょ、ちょっと抜け駆けはさせないし」と一言、彼女もまた体を芋虫のように動かして俺の足下に寄ってくる。
どうでもいいけどパンツ丸見えだぞ……。
「あ、あーしもその……許してくれるならウィレムにその……初めてをあげるし……」
ホントぶっ飛ばしてやろうか……。
ふざけたことを抜かす二人にイライラを募らせていると、ふとミユが口を開く。
「適当なこと言わないでよ。お兄ちゃんは二人みたいな低俗な存在の体なんかに興味がないの」
そう言ってミユは俺の元に歩み寄ると、俺の腕をぎゅっと抱きしめた。
「お兄ちゃんは私の体で満足しているから二人に興味はありませんっ!!」
ダメだ。こいつらまとめてぶっ殺してやりたい……。
勝手に適当なことを抜かすミユに二人はムッとした表情でミユを睨みつけた。
「ってか、勝手なこと言うなし。あんたのせいでシルクさまはカンカンで私たちが八つ当たりされてんだけど……」
「そうだにゃ。私なんて意味もなくシルクさまから蹴られたにゃ」
なんだかよくわからないがルシタファの面々はあまり仲が良くなくギスギスしているようだ。
まあ、どうでもいいけど……。
これからのことは決めていないが、とりあえずまずはやらなければならないことがある。
俺は外れた窓枠とバリバリに割れた窓を一度眺めてから、再び彼女たちに視線を戻した。
「とりあえずお前らの有り金を全部俺によこせ」
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