第15話 迷惑すぎる客
なんとか糸吹きアナコンダを運び終えた俺とミユはなかなかな金額を手に入れることができホクホク顔でギルドを出た。
が、糸吹きアナコンダの謎のヌルヌルのせいで全身ベトベトになった俺たちはその足で銭湯へと向かうことにする。
いや、まじで気持ち悪いっす……。
風呂場の魔法石式シャワーでヌルヌルを必死に落とした俺は、その後湯船に浸かり、さらにはサウナで汗を流して水風呂に浸かったことによって整った。
あー体がぬるぬるからぬくぬくに変わって最高……。
お互いに幸せな顔で風呂場から出てきた俺たちは、すっかり日も暮れていたこともあり屋台で串焼きを買い食いして宿屋へと入った。
そこまでは最高だったのだが……部屋に入りベッドで仰向けになっていたところで俺の幸せな時間は終わった。
「んんっ…………」
さっきからなにやらミユが体をビクつかせながら俺のことを見ていたことには気がついていたよ……だけど見て見ぬ振りをしていたのだけどダメでした。
「お、お兄ちゃん……」
「な、なんすか……」
「嗅ぎたい……」
「ごめん、お兄ちゃん今の言葉ちょっと聞こえなかったわ」
「お兄ちゃんのこと嗅ぎたい……」
「…………」
そう言ってミユは頬を赤らめながらベッドの上に登ってくる。
やめろ……ミユ……止めてくれ……。
「お兄ちゃん、約束だよね?」
「はて? なんの話ですかね?」
「約束だよね?」
仰向けの俺に跨がって顔を接近させてくる。
圧が凄い……。
「ほ、ほら、兄妹でこういうのは俺、良くないと思うんだよね」
「何言ってるんですか? そんなのただの設定ですよね?」
「都合の良いときだけ素に戻るのやめてくれませんか?」
「やだ」
そう言ってミユは俺の首元に鼻を近づけると俺の匂いを嗅ぎ始めた。
「お、お兄ちゃんの匂い良い匂い……」
「そ、そうっすか……」
結局、俺はその後めちゃくちゃミユに嗅がれた。
首筋から胸板、さらには顔を下げていき、最終的には口にできないところまで嗅ぎ始めようとしてので、彼女の顔を必死に押しのけてそこだけは死守した。
なんだろう風呂場で洗い流した疲れが一気に戻ってきた気がします。
ということで結局一時間近くも嗅がれ続けた俺は、精神力がすり切れそうになりながらそのまま眠りに落ちた。
とりあえず明日は手に入れた金を元手にさらに西方の街を目指そう。
なんて考えているうちに俺は意識を失った……のだが。
眠りについていたはずの俺が次に目を覚ましたのは朝……ではなく夜明け前のことだった。
ドッシャンっ!! バリバリっ!! ガッシャーンっ!!
「おいおいっ!? どしたどしたっ!?」
何かの破壊音によって深い眠りから一気に目を覚ました俺が慌てて上体を起こすと、ちょうど外の風によって靡いたカーテンが俺の顔を覆う。
ま、前が見えねえ……。
なんとか手でカーテンを払って室内を見やると……そこには大惨事が広がっていた。
まずは窓。
窓は窓枠ごと粉々に粉砕しており、ガラスの破片が床に散乱している。
そのせいで少し強めの夜風がカーテンを激しく靡かせていた。
それはまだいい……いや、よくはないけれど、誰かが石でも投げて窓を割ったのだろうとこの状況の辻褄を合わせられないわけではない。
問題はガラス片とともに床に転がっている三つの物体だ。
一つは前世で見たことがある三角形の小型のパラグライダーだった。
あ、この世界にもそんなものがあったんだ……。
なんて前世で見た懐かしい物体に感慨深くなりそうなところで、落ちていたもう二つの物体を見やる。
片方はギャルだった。
いや……なんで……。
が、彼女をギャル以外の表現で言い表すことができない。
お下げにしたブロンドの髪にチェックのプリーツスカート、上半身にはブラウスとその上にだぼだぼの薄ピンク色のセーターを身につけていて、さらにはルーズソックスのようなこれまただぼだぼの靴下を穿いている。
こいつにスマホでも持たせれば文句なしのギャルだ。
俺は最後の一つの物体に視線を向ける。
もう一方は猫耳と尻尾を持つ少女だった。露出の多いもふもふのビキニのような服を身につけている。
その二つの物体は頭でも打ったのか目をぐるぐる回しながら伸びていた。
いや……なんで……。
目の前に広がる光景を何一つとして理解できずに呆然とすることしかできない。
そんな俺の袖を誰かがくいくいと引っ張った。
「んんっ……お兄ちゃん……何の音?」
隣を見やると寝間着姿のミユがなにやら眠そうに目を擦っている。
いや、今の音でよくそんなのろまな反応ができるな……どんだけ神経図太いんだよ……。
あとミユちゃん、二人でおねんねを始めたときはそれぞれのベッドで寝ていたはずだよね?
なんで当たり前のように俺のベッドにいるの?
ツイン料金が勿体ないから隣のベッドで寝てくれないかなぁ……。
が、残念ながらそのことをとりあえずは無視できるレベルで目の前にとんでもないことが起きている。
「おいミユ」
「どしたの?」
「あれは……お前の知り合いか?」
「え?」
と、そこでようやくミユは事態に気がついたようで相変わらず目を擦りながら床に転がる三つの物体へと目をやった。
「うん……お友達だよ……。じゃあ私、もう少し寝るね……」
「いやいや、ちょっと待てっ!!」
再び横になるミユの首根っこを引っ張って強引に起き上がらせる。
「いや、お友達ってことはこいつらも刺客ってことだよな」
「そうじゃない? 私もうルシタファ止めたからよくわかんないよ……」
ということらしい。
ってことはこれは幸運だったのか? なんか気絶しているみたいだし……。
「おいミユ……」
「むにゃむにゃ……なに?」
「例の首輪って一つしかないのか?」
「え? 一応予備で二つ持ってるけど」
「じゃあそれを貸して欲しい」
「うん……いいよ……」
そう言ってミユはパジャマのシャツを少し捲っておへそを見せつけると、胸元から首輪を二つ取り出して俺に寄越した。
どうでも良いけど寝るときまで肌身は出さず持ってるのかよ……。
ということで、俺はベッドから降りてガラスを踏まないようにギャルと猫耳に首に首輪を装着すると、そのままリュックから獲物を縛る用のロープを取り出して彼女たちの手足を縛った。
うむ、これでよし。
とりあえず今は眠い……。
俺は彼女たちがしっかり束縛されていることと、首輪がついていることを確認するとミユが眠るのとは別のベッドに移動して再び眠ることにした。
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