第12話 ディール
ランバダイの街をしばらく歩いたところでギルドはあっさりと見つかった。
ということで早速ギルドに入って仲間に入れてくれそうな優しそうなパーティを探してみるのだが……。
「ああ? Fランクなんて足手まといになるだけだっ!! よそを当たってくれ」
「土地のことも知らなければ道案内にもならねえじゃねえか。うちはごめんだね」
などなど、それはもう話になりませんでしたわ……。
ギルドには複数のパーティがたむろしていたが、俺のようなひよっこを仲間に入れてくれそうなパーティは皆無だった。
今更だけど、マリアたちのパーティってホント聖人ばかりだったんだな……。
後の祭りではあるが、今更ながらマリアたちの優しいパーティが恋しくなり、心が折れそうになる。
が、心が折れる=捕まって殺されるというのが俺の末路だ。
心折っている場合ではない。
ということで、性懲りもなくギルド内のパーティに頭を下げて仲間に入れて貰おうとへこへこしていたのだが……。
「お兄ちゃん、なにやってるの?」
そんな俺を見てミユが首を傾げる。
「いや、なにって……仲間に入れて貰うんだよ。そうじゃなきゃ依頼が受けられないし、依頼が受けられなければ、おまんまが食べられないだろ」
「どうして仲間に入れて貰えないと依頼が受けられないの? DランクやEランクの依頼もたくさんあるみたいだし、私たちの実力に見合った依頼を受ければいいんじゃないの?」
はぁ……こいつは何にもわかっていない……これだからギルド初心者は……。
ため息を一つ吐いた俺は、彼女に事情説明してやる。
「あのなあ。自慢じゃないけど、俺はFランク冒険者なんだ。けれど、どこのギルドに行ったってFランクなんて低い依頼は見つからないんだよ。だから、強いパーティの依頼に頭を下げて参加させて貰って、せめてEランク冒険者にならなきゃ何もできん」
「だったら私とお兄ちゃんの二人で依頼を受ければいいよね?」
「は? お前、俺の話聞いてたか?」
「お兄ちゃんはFランク冒険者なんでしょ? 私はBランク冒険者だから、私が依頼を受けてお兄ちゃんと二人で頑張ろうよ」
「冒険者ランクは自称で決められるほど甘いシステムじゃないぞ?」
「あ、お兄ちゃん私のこと疑ってるっ!! ほ、ほら、ここにBって書いてるでしょ?」
そう言ってミユはポケットからギルドカードを取り出すと俺に見せびらかせてきた。
「私、お兄ちゃんよりも凄いもんっ!!」
そう言ってえっへんと胸を張るミユ。
「マジかよ……」
にわかに信じられなかった。
何せこいつは俺が魔法波を制御していることにすら気づかずに、あっさりと負けたクソ雑魚だぞ。
そんなやつが何をどうすればBランク冒険者になれるんだ?
「偽造か?」
「ぎ、偽造じゃないよっ!!」
ミユは憤慨したようにカウンターへと歩いて行くと「照会お願いしますっ!!」と受付のおねえさんにカードを渡す。そして、おねえさんから紙を受け取ると、こちらへと戻ってきた。
「ほらっ!!」
そう言ってミユによって自慢げに掲げられた紙には、これまで受けた依頼内容と、報酬の額がずらりと並んでいた。
どうやら嘘ではないらしい。
「ま、まあ途中からはルシタファで働いていたから、Bまでしか上がれなかったけど、もっと頑張ればSランクだっていけたもん」
いけたもんらしい。
S級? S級って言ったらマリアよりも上の最高ランク冒険者じゃねえか。
こんなクソ雑魚ナメクジがSランクとは笑わせてくれるわ。
が、まあ彼女がBランクなのはなにかと都合がいい。ここは彼女のギルドカードを頼りに依頼を受けたほうが良さそうだ。
「よし、そうとわかればさっそく依頼を探そう」
ということで選択肢が大幅に広がった。さっそく壁に貼られた依頼の中から適当なものを探し出そうとする俺だが。
「えぇ……どうしようかな……」
と、ミユはなにやら不敵な笑みを浮かべて俺を見つめてきた。
「んだよ……」
「お兄ちゃんってFランク冒険者なんだ……雑魚なんだね……」
急にメスガキみたいなムーブをかましてどうした?
「だったらなんだよ……。こちとら数日前にギルド登録したばかりの初心者なんだよ」
「お兄ちゃんは私がいなきゃ依頼すら受けられないんだ……」
いやだからそのメスガキムーブはなんだよ。
わからせられたいのか?
「私がお兄ちゃんのこと仲間に入れてあげないと、お兄ちゃんはお金が稼げないんだよね?」
「だったらなんだよ……」
「それって、私がその気になればお兄ちゃんのこと飢え死にさせることだってできるってことだよ」
なるほど……どうやらこいつは俺がFランク冒険者だと知って急に足下を見てきやがったらしい。
「なんだよ。取り分の話がしたいのか? もちろん、お前のギルドカードを使う以上、お前に多めに取らせてやるつもりだ」
俺としては最低Eランクにさえ上がれれば自分一人でも動けるのだ。
その権利を貰えるのなら、最悪今回の依頼は全額彼女に渡してもいいぐらいだ。
が、そんな俺の言葉にミユは首を横に振る。
「別にお金なんかいらない……。それよりもお兄ちゃんの匂いが欲しい……」
そう言ってミユはなにやら恍惚とした表情で俺を見上げてきた。
あ、自分怖いっす……。
「お兄ちゃん良い匂いだよね……。やっぱり育ちが良いからかな? それなのに、男らしい野生的な匂いもするし、私、もっともっとお兄ちゃんの匂いを近くで感じていたい……」
「に、匂いが欲しいとはいったい……」
「毎日一回お兄ちゃんのこと近くで嗅がせて……」
「いやっす……」
「でも困るんだよね? だってお兄ちゃんはFランク冒険者だもんね。初心者のお兄ちゃんのことを受け入れてくれるパーティなんてそう簡単に見つかるのかなあ?」
「…………」
「私悲しいなぁ……お兄ちゃんがルシタファに捕まっちゃうの……。もしかしたら殺されちゃうかもね?」
「一回だぞっ!! 一日に一回だけっ!! それ以上はビタ一文譲らねえっ!! それで手を打て」
負けた……。
そんな俺の言葉にミユは「やったっ!! やったっ!!」とその場でぴょんぴょんと飛び跳ねた。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます