第11話 どん引かれ

 ということで彼女を連れて行くことに決まりました。


 不本意ではあるけどね……。とりあえず俺の敵だった女だから信用するつもりはないけれども、こいつに自由を与えるのは色々と面倒そうなので連れていくほかない……。


 あと、この街にはこれ以上長くはいられない。


 本人曰くまだ俺の所在について細かいことは話していないらしいが、さっきも言ったとおり信用はできん……。


 ということで、俺は翌朝、宿を出ると彼女とともに西へと向かい港町ガダイを目指すことにした。


 宿屋を出た俺たち一行はとりあえずクソダサネームの宿屋スターダムに立ち寄ることにした。


 昨日、彼らとは変な別れになってしまったからな。マリアたちは俺をランク上げのためだけにパーティの仲間に入れてくれた。


 結果的にランクを上げることはできなかったが、せめて街を出る前に彼女たちの親切に感謝の言葉を伝えておきたかった。


 ということでミユを連れてスターダムへとやってきた俺は、彼女が生き別れの妹で一〇年ぶりの再会をしたと嘘の説明をした上で感謝を告げる。


 その結果、マリアからは引きつった笑みと、これまでの気さくな態度が嘘のような「い、いえ、こちらこそお役に立てず申し訳ございません」という言葉が返ってきた。


 その後も少し会話をしたかったのだがマリアは「で、では私はこれから用事がありますので……」と告げると逃げるように階段を駆け上がっていってしまう。


 そこで俺は気がついた。


 ミユの首に首輪がついており、そこから伸びたロープを俺が掴んだままだったという事実に。


 生き別れて感動の再会を果たした妹に首輪を付けて奴隷のように連れ回す。


 鏡に写った自身の姿を見てそのことを思い出した俺は全てを察した。


「ウィレムさま、どうかしたんですか?」


 そんな俺を見てミユは不思議そうに首を傾げていたが、俺は「な、なんでもないっす……」と一言、ロープから手を離して彼女にロープの自己管理を命じた。


 ま、まあ魔法は使えないし、放し飼いでも大丈夫か……。


 ということで、心にぽっかりと穴を空けたまま俺とミユはレクタの街を出ることにした。


※ ※ ※


 ミユはわずかであるが金を持っていた。ということで、俺はミユにチケットをおごって貰い西方へと向かう馬車へと乗り込んだ。


 なんというかミユは目立つ。


 前にいた世界であればセーラー服を身につけた女の子なんてどこにでもいたし、むしろセーラー服を着ている男の方が目立ったが、ここでは逆だ。


 特に声をかけられるわけではないが、同乗した客は首輪を付けたまま俺の隣にぴったりとくっつくように座るミユに奇異の目を向けていた。


 あぁ……なにから何まで恥ずかしい。


 長距離馬車は途中休憩を挟みながら一〇時間ほどかけてランバダイという街へと到着する。


 ここはリクテン王国の内陸部に位置する巨大な宿場町である。


 街の中央には巨大な川が流れており、ここはこの川は水運に使用されているようでリクテン王国内でも物流の要なのだという。


 さすがは巨大な宿場町である。巨大な通りには二階建ての宿屋がずらっと軒を並べており、そんな大通りを貫くように伸びるこれまた大通りには今度は酒場や大人相手のいかがわしい店が軒を連ねていた。


「お兄ちゃん、これからどうするの?」


 大通りのど真ん中に立つミユは首を傾げながら俺を眺める。


「とりあえずは金を稼がないことにはどうにもならん。俺とお前の全財産を足しても食事代も宿泊代もあと数日しか持たないからな」

「お金を稼ぐってどうするの?」

「ギルドに行って仕事を探すんだよ。本当は今頃俺はEランク冒険者だったんだ。まあ、お前のせいでFランク冒険者のままだけどな……」

「じゃあお兄ちゃん頑張らなきゃだね?」

「あ? なに他人事のように言ってくれてんの? お前もギルドに行って一緒に稼ぐんだよ」

「で、でも私、首輪を付けられてるし……」


 そっか、少なくとも首輪を付けられている間、こいつは魔法が使えないんだったわ……。


 そうなるとミユは非力な一〇代の女の子だ。山に入って魔物退治なんてどう考えても不可能だよな……


「それもそうだな。それについてはこれから考える」

「はーい!! 私、お兄ちゃんの言うことならなんでも聞くよ」

「あ、そうそう、そういえばなんだけど……」

「なーに?」

「なに当たり前のように俺のことをお兄ちゃんって呼んで、タメ口使ってくれてんの?」


 あまりに当たり前のようにお兄ちゃんって呼んでくるから、一瞬、自分が一人っ子だってこと忘れてたわ……。


 そんな俺のツッコミにミユは頬に人差し指を当てて首を傾げる。


「はて?」

「いや、はて? じゃなくてさ……」

「だって私を生き別れの妹だって説明したのはお兄ちゃんだよ。どうせならこれからも兄妹って設定にした方が都合が良いし、そういう役を演じておいた方がいいと思うよ?」

「ま、まあそうかもしれないけどさ……」

「それともお兄ちゃんは妹は嫌い?」

「…………」


 くそぉっ!! 否定ができない……。


 俺は前世含めて妹を持ったことがない。前世では兄弟は野郎ばっかりだった。


 だから妹に憧れがあるんだよっ!! 妹を持つ奴はみんな口を揃えて『妹なんてうざいだけだぞっ!!』と力説してきたが、それでも俺には妹に憧れがあった。


 この匂いフェチ変態女が妹なのは、少々癪に障るけれど妹が嫌いかと言われれば、妹という存在に憧れがあると認めざるを得ない。


「あ、お兄ちゃんは妹が好きなんだ~」


 質問に言いよどんでしまった俺を見て、全てを察したミユがなにやら意地悪な笑みを向けてくる。


 ああ、腹立つ。


「と、とにかく、金が必要だ。ギルドに行ってパーティに入れて貰える人を探さないと……」


 とりあえずそう誤魔化して俺たちは街の徘徊を始めた。

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