第50話 人形遣いは最強かもしれない
「では、まいります」
席を立って少し離れた場所に進む。床に手のひらを向けた姿勢で魔力を放つと、魔法陣が現れる。
「いでよ『
魔法陣から一体の人形が現れる。それは無機質ながら妖艶な美しさをもつ夜の女王。銀糸の髪は月の光を映したかのように輝き、纏うドレスは闇夜の星空を模している。ガラスのような銀の瞳はすべてを見通すが何も映さない。
「これは…なんと美しい…」
誰ともなく、そのような呟きが聞こえてくる。
「さぁ、ノクティラ。皆さんに夜の夢を見せてあげて」
その言葉で、人形がフワリと舞う。
すると、部屋の中は暗闇に包まれ周囲に輝く星空が出現した。先程まで椅子に座っていた筈の彼等は宙に浮き、まるで空中遊泳をしているかのようだ。人形が舞う度に周りの景色が移り変わり、やがて真っ青な星が近付いてきた。
ガクンとした感覚と共に真っ逆さまに落下していくが、途中でフワリと止まるとそこはウォルティス王国の真上だった。
そこから更に下降し続け、気付けば元の部屋でソファに座っている。束の間の体験だが、かなりのインパクトは与えた筈だ。現に彼等の顔は驚きの表情のまま誰一人言葉を発していなかった。
「皆様、いかがでしたか?」
「い…今のは一体…」
「この人形の能力で皆様に幻影をお見せしました。『人形遣い』の技能は、人形を操ることで様々な魔法を扱うことが出来るのです」
「人形の能力…つまり、人形の性能次第で強力な魔法が扱えるという事かな?」
「そういう事になりますね。私は『クラフト』という技能を持っておりましたので、幼い頃は遊ぶための人形を作っていました。自分の作った人形で遊んでおりましたらいつの間にか『人形遣い』という技能に目覚めていたのです。作る人形によって様々な事が出来ますし、全ては人形次第ですね。私自身は至って平凡な能力しかありませんので…」
「なるほど…ところで、古代ゴーレムの修繕も行えると手紙には書いてあったが…」
「えぇ。人形遣いに目覚めた時に、古代ゴーレム技術の知識も得たのです。イチから作成するにはまだ修練が必要ですが、現存するものを修繕することは可能かと」
「なんと…素晴らしい技能だ。古代ゴーレムの謎が解き明かされれば魔導技術の更なる飛躍が期待できるかもしれん」
「未だゴーレムによって守られた遺跡もありますし、そちらの調査も進展するかもしれませんね」
学院長とナサニエル先生が興奮気味に話し合っている。これは好感触じゃないか…?
そんな二人に対し、第一王子は何だか難しい顔をしている。どうしたんだろう?
「…アシェラッド嬢、人形はその一体だけかい?」
「え?いえ、他にも何体かおりますけれど…」
「そうか…私は以前…どこかで君の人形を見なかったかな?」
「…っ、いいえ。人前で披露するのは今日が初めてです」
あっぶな。ちょっと動揺しちゃったよ…。俺とアムディに関する記憶は消してある筈だけど、もしかしたら王子の技能で違和感を覚えているのかもしれないな。それに、この部屋に入った時から、熱心に俺を見つめてくるんだよね…ちょっとお尻がモゾモゾしてしまった。
まぁ、あの時の事を思い出すことはないだろう。たぶん。
「さて、素晴らしいものを見せてもらったよ。本来なら時間を掛けて裁定を下すが、古代ゴーレムについての技術躍進が望めるなら文句無しで編入を許可したいと思う。なぁ、ナサニエル?」
「私は問題ありません。夏季休暇が終わるのが待ち遠しいですよ」
「殿下はいかがですか?」
「…」
「殿下?」
「あっ、あぁ。私も異論はない」
よっしゃー!!!何とかなって良かった。やっぱ人形は強いね。それにしても、王子の様子が気に掛かる。何だか顔色も悪いし…
これって絶対俺のせいだよね。でも、出来れば忘れててもらいたいし。うーーーん、困ったぞ?
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