第49話 勢いってコワイ

「なんで、クロテ・スーノ入るなんて言っちゃったんだろう…」

「もう、今更何言ってるのよ」

「だぁぁってぇぇぇぇ」

「ほら、もうすぐ着くのでしょ?シャンとなさい」

「ふぇぇ…アムちゃんがお母さんみたいだよぉぉ…」

「貴女はすっかり子供になっちゃったわね?」

「うぐぅ…」


本当に今更なのだが、クロテ・スーノへ入ると言ってしまった事に激しく後悔をしていた。いや、そもそも何でこんな事になったんだっけ…?


「自由な時間と禁書に釣られたんでしょ」

「返す言葉も御座いません…」


いやー、アムディ事件があってから心と身体の結びつきが強くなったというか…今までは何処か壁を隔てたような感じだったのに、父に心の内を思い切り話してから壁が無くなったような、この身体に現実味が増したというか…嫌ではないけど、不思議な気分。


「あぁ、だからなのね」

「え?」

「貴女の魂ってちょっとブレて視えるのよ」

「そうなの?」

「うん。狂ってた時に視たのはもっとズレてた姿だったけど、お父上と話した後はズレが少なくなっていたわ」

「そうなんだ…って、狂ってた時の記憶あるの?!」

「断片的だけどね。彼の魅了けはいが消えたのと、貴女の姿がちゃんと認識出来なかったせいで、彼が貴女に殺されたのかと思っちゃったわ」

「あっ、それで襲いかかってきたんだね…」


それにしても、魂がズレてるとは思わなかったなぁ。


「それより、最近調子良いんじゃない?」

「うーん、言われてみれば…なんとなく?」

「魂が身体に完全に馴染めばもっと調子出るわよ」

「そういうモンなの?」

「そういうモンなのよ」


そんな事を話していると、馬車は王宮へと入っていった。何の為か?もちろん、クロテ・スーノへの編入試験の為である。


通常、編入試験は学院で行われるのだが、夏季休暇中に学舎のメンテナンスが行われていて使えないので急遽王宮での試験になったのだ。


「うぅ、気が重い…」

「ほら、行くわよ〜」

「何でそんなに張り切ってるの…」


王宮での試験に益々気が重くなっている俺とは違い、アムディは何だか楽しそうだ。


「だって、ヒトの生活って一度体験してみたかったんだもの!それに、学校って愛がそこら中で生まれる場所だから元・愛の女神としては見逃せない場所なのよ」


アムディは最近「元・愛の女神」と自称している。どうやら、自分が愛に溺れてしまった事を悔やんでいるらしい。「愛を司る女神なのに愛に溺れてしまうなんて、女神失格ね」と笑っていたが、俺はそんな彼女こそ愛の女神に相応しいんじゃないかって思ってる。


まぁ、俺は愛なんてサッパリわかんないけどな!


「お待ちしておりました。こちらへどうぞ」


通されたのは王宮の応接室。


そこにいるのは―


「教皇猊下、ご無沙汰しております。」

「ほっほっほっ。学院長や、今日の儂はただの保護者じゃ。どうぞよろしく頼むぞ?」

「アムディナ様、そして、アシェラッド嬢。ようこそおいでくださいました」

「第一王子殿下、それから、学院長とナサニエル先生。本日はよろしくお願い致します」


アムディナとはアムディの事だ。主神であるフィリシュィオーネの名は流石に不敬だと付けられる事はないが、その他の神の名を付ける者は多い。


アムディによれば「本当はアムティエルデュニエールなのに、長くて読めないからってアムディになっちゃったのよ!」との事だったが、今更正式名で呼ばれるのも…という事でこの名に落ち着いた。


「アムディナ・ティエル・デュールと申します。本日は編入試験を受ける機会を頂き光栄ですわ」

「こちらこそ、聖女様のご降臨を心よりお慶び申し上げます」


教皇が神の代弁者なら、聖女は女神の分身だ。その地位は国王と並ぶほどで、子爵家の俺からすれば雲の上の存在でもある。つまり、俺の存在が霞むって事だね!ひゃっほい隠れ蓑!


「さて、アムディナ様は聖女であるとの事ですが正式に認定されたのですか?」

「うむ。幼い頃から隠して育てておったが、この度女神様より正式に名乗ることを許されたのじゃ。預けられた経緯は我がハイエルフ族の秘匿に関わる故明かせぬが、『託宣の書』にも書かれておる故、教会にて確認するが良い」

「なるほど…して、アシェラッド嬢とはどういったご関係なのでしょうか?」

「うむ、セラティアの洗礼の儀で儂の元へ通うようにと神託があっての。丁度ティエルの教育もしておったし、この二人なら良き友人になれると引き合わせたのが始まりじゃ」

「そうでしたか。それで…アシェラッド嬢の推薦理由ですが『人形遣い』というのはとういった技能なのでしょうか?学院の古文書にもそのような技能の記載が無く、判断の下しようがないのです」

「うむ、そうじゃろうて。儂も初めて見た時は驚いたが…どれ、ちと見せてやるがよい」

「はい、教皇様」


ここまで来たら仕方ない。いっちょ見せてやりますか!

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