第51話 正直スマンかった
「確実に影響が出ていると思うわ」
「だよねぇ…」
帰りの馬車で、アムディナに第一王子の事を相談していた。彼女も王子の様子が気にかかったらしい。そういえば、アムディナって第一王子に執着してたよね?
「あ、それはもう良いの。彼の影を追いかけるのはやめたから」
「え、そんなアッサリ引き下がれるものなの?」
「そうねぇ…貴女にやられた時に、執着心も何だか綺麗さっぱりしちゃったのよねぇ」
「そうなんだね」
「だから、第一王子は狙わないから安心してね!」
「え?あ、うん…?」
「あらやだ…これだから経験ゼロは…」
「むっ、よくわからないけど悪口はやめてよね!」
まったく、理由のわからない事を…
「それより、王子の状態だよ。神様の知恵袋はなんか無いの?」
「知恵袋って何…。そうねぇ、お父上は何ともなかったんでしょ?」
「うん。何の違和感も無さそうだよ?」
「うーん、だとすると技能が関係しているのは間違いなさそうね」
「だよねぇ…『瞬間記憶』か」
『瞬間記憶』は、見たことを写真のように記憶し続け決して忘れない能力だ。頭の中に大きな図書館があって、本のように記憶が綴じられているような感じで、必要に応じてそこから本を取り出すように記憶を思い出せる。
便利な技能なのだが時と共に記憶する量が膨大になる為、それを扱えるだけの知能も必要になってくる。切れ者と名高い第一王子はうまく技能を使えているのだろう。
ちなみに、俺がやったのはその本の1ページの上に新しい情報を貼り付けた形だ。ページを破いて継ぎ足す事も考えたが、王子の負担になりそうだしどんな影響が出るか分からなかったからね。ちなみに、父の方は問題なかった。
王子はこの能力でクロテ・スーノに入ったと思うのだけど、こんな形で影響するとは思わなかったよ…。もしかして、中途半端に消したのが良くなかったのかもしれないな。
まぁ、他にも記憶は増えていくだろうし本人が意図して引き出せない限り違和感も気にならなくなるだろう。
「とにかく、これ以上触れるのはやめたほうが良いわね」
「そうだね…」
心の中で全力土下座しておこう。王子、ごめんねっ!
編入試験を受けてから一週間が過ぎる頃、正式にクロテ・スーノ入りを許可するという文書が届いた。これで、夏季休暇明けからは自由に登校出来るぞ!
そして、気が付けば夏季休暇も残り半分となっていた。前半はバタバタしてたからな…後半はゆっくり過ごしたい。
そう思っていたら、母から手紙が届いた。
『アーシェちゃん。何やら色々とあったようですね?一度こちらへ来てお母様に詳しくお話してちょうだい。お兄様達も待っているわよ』
と書かれていた。文面からなにやら怒りを感じるのは気の所為だと思いたい。
「と、いうわけで一旦領地へ行こうかと思うんだ」
「あら、そうなのね」
受肉してからヒト社会での常識をしっかり学んだアムディナは慣れた様子でお茶を淹れている。最初はすべて魔法でやっていたのだが、ヒトの中にはそれを不敬だ!って怒り出す者もいるからね。
「神界の年寄もそんな感じよ。全く、何処へいってもそういう輩は一定数いるのね。本当に面倒だわ」
うん、完全に同意。まぁ、アムディナは女神だし文句を言う方が不敬なんだけど。
「ねぇ、私も一緒に行っていいかしら」
「えっ、どうだろう?良いんじゃないかな」
「ほっほっほっ、それなら儂がお父上に連絡をしておこうかの」
教皇が父に連絡したところ、聖女の護衛という形で一緒に帰省すると返答があった。一番上の兄も一緒に帰省するらしく、3日後に出発することになった。
移動で往復一週間ほど係るし、新学期の準備もあるから、領地には二泊三日する事になるかな。何か手土産あったほうが良いかな?
「それなら、わたしも買い物したいし街へ出ない?」
「そうだね。明日は買い物して荷物の準備をしようか」
「えぇ。ヒトの旅行って初めてだから何が必要か教えてくれるかしら?」
「モチロンだよ。ついでに美味しいもの食べよう!」
「あら、良いわね!明日が楽しみだわ!」
夏季休暇中に街歩きしておきたかったから丁度いいや。寮に帰ったら寮母のメラニーにおすすめの店は無いか聞いてみようっと。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます