第46話 魅了騒動はこれにて終幕
「はぁ〜、労働のあとのお菓子は美味しい〜」
「このクッキー美味しいわね」
「王都でも有名な店の焼き菓子なんだ。特に店でしか食べられないクレープが絶品でね」
「えっ、殿下は店に行ったんですか?」
「魅了がかかる前に一度ね」
「えぇと…なんかゴメンナサイ…」
「いえ、思うところはありますが神のされる事に文句は言えませんよ」
「それはつまり文句があるって事ですよね」
「うわぁぁぁん!」
お腹も空いたし、一先ずお茶にしようということで、皆で持ち寄った食べ物を摘んでいる。なんかこういうの楽しいな。
「それで、さっきの話の続きなんだけど…」
「えーと、なんだっけ?」
「私が狙われちゃうかもって話よ!」
「あ、そうだった」
お茶で喉を潤してから、説明する。
「今回はアムディ様が中に入って自立するのを前提にしているので、予め自衛手段は持たせてたんです」
「自衛手段?」
「『人形遣い』の技能の一つに、人形に様々な技能を持たせるものがあるんです」
「そんなことが出来るのか?!」
「出来るみたいですね。制約はありますけど」
正確には、人形も魔道具の一つなので自分のスキルを魔石に付与して中に組み込んである。無制限に何でも付与出来るわけではなく、素材と付与するスキルのバランスが繊細で難しいのだ。
「まぁ、素材がヤバいし私のスキルもヤベーから余裕なんだけど」
「うん?」
「あ、いや何でもないです」
造ってた手応え的には、もっと色々とやれそうだったけどね。手が空いたときになにか作ってみようかなぁ〜。
「なので、一般的な冒険者程度には動けるように調整してあるんです。あとはアムディ様が受肉?してその辺の機能がどうなったか次第ではありますけど…」
「ん〜」
アムディがこめかみに指を当ててグリグリしながら唸っている。そして、パチっと目を開けると嬉しそうな笑顔になる。
「貴女がくれた技能、ちゃんと使えそうよ!」
「あぁ、良かった。肉体って言われたからちょっと心配だったんで…」
「最高よーー!!!!!」
そう言って、アムディが抱きついてくる。うん、受肉しただけあって柔らかいな。
「それにしても…君は本当にとんでもないんだな」
「…それは褒め言葉でしょうか?」
「モチロンだよ。この腕輪もそうだが…」
「あっ、そうでした!!!腕輪ちょっと見せてください」
腕輪の事すっかり忘れてたよね。『魅了』の元凶はどうにか出来たし、王子の問題もこれで解決出来るはずだ。
腕輪を外して、王子の顔を覗き込む。神眼で見ると…まだ『魅了』は付与されてるなぁ。
「アムディ様、殿下の魅了消せますか?」
「んー、元々この子が持っていた技能に手を加えただけだからもとに戻せば大丈夫よ」
そう言いながら、アムディが王子の額に触れると、触れた部分がほんのり光った。
「さ、これで良いわ」
「えーと…『
「そうよ。『魅了』はヒトを自分の虜にしてしまう技能だけれど、『魅力』はその人の良さを引き立ててくれる技能なの。この子が元から持っていた力の方向性を少し変更して『魅了』にしていたってワケ。まぁ、元の技能より強力にはなっているけど国を治める者にとっては問題ないわね」
「なるほど、これなら腕輪は必要な…」
もともと『魅了』を封じるための腕輪だし、必要ないだろうと思ってしまおうとした手を王子に掴まれてしまった。え、なんで?
「この腕輪の効果は書き換えられるかい?」
「え、そりゃ出来ますけど…必要あります?」
「私には必要なんだよ。…身を守る手段はいくらあっても足りないくらいだからね」
「そうですか…それじゃ、書き換えるんで貸してください」
王子から腕輪を受け取り分解していく。ペリペリと金属を剥がしていると、王子が隣りに座ってきた。何か近いけど気にせず作業を続ける。
出来上がったのは腕輪と、新たに指輪が一組。どちらにも『状態異常無効化・悪意察知・身代わり・防御(大)』の効果が付けてある。もっと強力なのも作れるけど、やり過ぎは良くないと思うんだよね。
「ありがとう、アシェラッド嬢。大切にするよ」
「それはどうでもいいですけど、生命を失うような攻撃がされたら壊れますから気をつけて下さいね」
「…わかったよ」
腕輪は若干ショックを受けたような顔をしている王子へ。そして、指輪は―
「アーシェ、これは…?」
「お父様とお母様に揃いの指輪です。王子と同じ効果と、互いの指輪のどちらかに危険が迫ったら分かるようになっています」
「…っ」
「私からの感謝の印です」
「ありがとう、早速付けさせてもらうよ」
父は笑顔で俺を撫でると、早速指輪をはめていた。本当はもっと早く渡したかったんだが、渡すタイミングが無かったんだよね。
「私も君と揃いの指輪が欲しいな」
「ははは、殿下。それはご自分のご婚約者様と作られたら如何ですかな?」
「いやいや魔導士団長殿、これほどの才女なら国王陛下も納得されると思わないかい?」
「はははは」
「はははは」
父と第一王子の間に何やら火花が見えるけど、自分の身は守れるから指輪は必要ないんだよな。あと、手指にアクセサリあると鬱陶しいから嫌なんだよね。
こうして、王子と愛の女神の騒動は幕を閉じたのだった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます