第44話 お人形遊びは女児の嗜み

「先日は失礼しました…」


俺が父とちょっと距離を縮めたあの日から数日後、俺達五人はふたたび教皇の私室へ集まっていた。


王宮では護衛や従者達がいるし、何処に目や耳があるかわからないからね。


「さて、まずはアムディ様の依代をどうするか決めねばなりませんの」

『迷惑をかけるわね』


愛の女神アムディは、自身が片思いしていた神が姿を消した事で自暴自棄になり面白半分に地上の人々に『魅了』の技能を振り撒いた挙げ句、穢れに触れ狂気に染ってしまった。


そして、片思いしていた神に似た第一王子に強力な『魅了』の技能を与えた挙げ句、うっかり自分も魅了されちゃって悪質ストーカー化した…という、迷惑女神だった。


暴走した彼女を捕獲して元に戻したのだが、いたずらにヒトを困らせた彼女は罰として俺の助手となったのだ。


やったことに対して罰が軽くないか?とは思ったが、幸いにも世界全体には影響のない範囲だったのでこれくらいで丁度いいんだとか。神様の感覚って謎だわ。


今のままで下界にいると再び穢れに侵されてしまうので依代に憑依する必要がある。しかも、神を降ろせるレベルの依代を用意しなきゃいけないのでかなりハードルは高い。


王子達があーたこーだと話しているが、この数日でどうするかは考えてあるんだよね。


「それなんですけど、ゴーレムにしようかと思います」

「「えっっ」」


王子と父がハモった。仲良しだね。


「ふむ、人型になされるので?」

「うん。お供として連れて行くなら自立して身を守れてくれないと困るでしょ?かと言って魔法生物を造るのには時間も材料も足りないし…」

「「魔法生物を造る…」」

「ほら、女神様なんだから普通の素材じゃダメだし聖属性ってのを考えるとゴーレムの方が造りやすいんだよね〜」

「ふむ、確かに女神の器になれる魔法生物を造ろうとなると難しいかもしれませんなぁ」

「造れなくはないんだけどね。ただ、一緒に行動するとなると魔法生物じゃない方が都合がいいかなって」


教皇の私室には大きな作業机がある。いつもは本やら作りかけの魔道具やらが積み上がっているが、今日はここで作業をするので綺麗に片付けてもらった。教皇は何だかグッタリしてたけど。


まずは身体造りからだ。空間収納から粘土を取り出して捏ねる。ここにミスリル粉末と世界樹の雫を混ぜて更に捏ねてから成形していく。本来はかなり時間がかかるのだが、クラフトスキルのお陰でどんどんとパーツが出来上がっていく。


パーツの成型が終わったら、焼成だ。高温の窯に入れて焼いていくんだがここは魔法で解決。空気の層を作ってから高温の炎を作り出して、その中にパーツをいれる。高温すぎると焦げちゃうから慎重にね。


素焼きが終わったら取り出して、粗熱を取ってから釉薬をかける。精霊が結晶になったと謂われる精霊石を粉末にして世界樹の雫と樹液で作ったモノだ。


釉薬をかけて焼成を2回ほど繰り返せばパーツは出来上がり。表面は滑らかで硬いが、衝撃に強くしなやかさもある。いやー、良いもの出来ちゃったね。


出来たパーツにミスリルのインクで紋様を描き込む。粘土では強度に不安があるのでそれを補う為だ。全てのパーツに紋様を書き込んだらデモンスパイダーキングという蜘蛛の糸とミスリル線を合わせた伸縮性と強度に優れた糸でパーツを繋いでいく。


全体のバランス等を確認したら、一度バラして仕上げに取り掛かる。


世界樹の枝で作った骨組みに『女神の涙』と呼ばれる宝珠をセット。これがゴーレムの心臓となる。それを胴体の中へ差し込んでパーツを繋ぎなおす。骨組みの関節部分には各属性の宝珠を仕込んであるから、これで属性魔法もある程度使えるようになるのだ。


顔の造形にはかなり拘った。瞳にはローズクォーツを使ったし、女神になるべく似せてある。髪の素材はデモンスパイダーキングの糸をピンク色に染めた物を使用した。希少な魔物素材だが、その艶と滑らかさは抜群だ。あと、燃えにくいし強度も抜群。


服は既製品だが、これは女神が自分で好きな服を着たら良いと思っての事だ。希望があればもちろん俺が作るけどね。


最後にメイクを施せば女神型ゴーレムの完成となる。形は球体関節人形に近いが、こちらの世界では自立する等身大人形はゴーレムという扱いになる。ゴーレムなので、魔力を通せばこのままでも動かせるぞ。


試しに魔力を流して一通りの動きをさせてみた。動きが滑らかで美しいね。指先もしっかり動くし、全体のバランスも良さそうだ。


我ながら会心の出来だね!

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