第42話 内なる声
「お父様…」
「女神に遣わされた…とはどういう事でしょうか?」
父が教皇を真っ直ぐ見据えて問い質す。教皇をちらりと見ると、飄々とした顔で「そんな事言ったかの〜」なんて言っていた。ずるいぞ、じーちゃん!!
まぁ、いいか。どうせ忘れるんだから。
「私は生まれる前に女神様から役目を貰っています」
「アーシェ?」
「瘴気に蝕まれつつあるこの世界を救って欲しい…と」
「は?それは本当なのか?」
「セラティア様、よろしいので?」
「よろしいも何も、じーちゃんがポロッとしちゃったんでしょ」
「ほっほっほっ、つい口が軽くなってしまいましたわい」
「…つまり、真実だと?」
父が、信じられないといった表情でソファにもたれ掛かった。王子は眉間にシワを寄せて何やら考え込んでいる。
「亜神…というのは?」
『ヒトと神の間に在る、神の如き力をヒトの世で奮える者よ』
「神の如き力…」
『ただ、成長途中ではあるかしら?』
「この世に生まれてまだ6年ほどですからね」
「なるほど、確かに拙さはあるな」
「だが、強い」
うわーーーん!二人が難しい顔してるよ〜〜〜〜。
「どうして今まで黙っていたんだい?」
「えっと…それは…」
言える訳が無い。前世の記憶を持ち、女神から役目を貰って生まれてきた自分の事を全て話して、果たしてこの人達は受け入れてくれるだろうか?もし、全て話して離れていってしまったら?
どうしよう、怖い。
もちろん、今までも全て話してしまおうかと何度も考えた。しかし、俺に優しくしてくれる人達が変わってしまったらと思うと怖くて言い出せなかったのだ。
過去、俺の元を去っていった人達の冷たい瞳がちらつく。嘘つきと呼ばれ、蔑まれた記憶が胸に突き刺さる。
担ぎ上げられるのも、目立つのも嫌だ。しかし、一番恐れていたのは…大好きな人達が離れていく事だったのだ。
今もこうして真実の一つを明かしたが、父の表情は固い。隣に座る王子も組んだ手に額を乗せて黙りこくっている。その表情は見えないが、恐らく俺の真実を聞いて今後どうすべきか思案しているのだろう。
ここまできたら全て話してしまおう。そして、最初の予定通りに彼等の記憶を全て消してこの地を去ろう。夢物語のような話だ。信じようが信じまいが関係ない。
いっそ、信じずに突き放してくれた方が潔く去れるというものだ。
「私には前世の記憶があります。前世で死んだ私は女神の力でこの世に生を受けたのです。私が何も話さなかったのは、お父様にそのような顔をされたくなかったから」
その言葉に父がハッとした。だが、言葉は止まらない。
「前世の私は不幸でした。裕福な家庭で生まれ育ちましたが、身体が弱く思うように動けなかったのです。動けなくなると、私に期待していた家族からは見捨てられ、周りからも人は離れていきました」
声が震える。心臓がドクドクと早くなるのを感じた。
「全てを話せば、ヒトが離れる。家族にすら見捨てられる。私はもう、そんな苦しい思いはしたくなかった。だから、誰にも言わずすべてを隠して生きてきたんです。教皇が知っているのは女神から味方になるよう神託を受けていたから」
もう、誰の顔も見れなかった。ただ手を握りしめて声を絞り出すのに必死だった。
「私が真実を話せば、貴族たるお父様は国に報告をしなければならないでしょう?そうすれば私は国に縛られて国の道具とならざるを得なくなる。女神からの役目もあるし、成人まで目立つ事は避けたかったんです。そして、成人した後は冒険者として世界を旅するつもりでした」
「アーシェ…」
「私は家族が好きだったんです。だから、私がすべてを明かせば家族を盾にとられたら、従わざるを得なくなる。それに、真実を知った家族に嫌われるのも怖かったんです…」
握りしめた拳に、涙がポタポタと落ちていく。
今まで黙っていた事への罪悪感、真実を告げる恐怖、面倒な役目を押し付けた女神への怒り…色んな感情が入り混じって、こめかみが熱くなるほどに全身に力が入っていた。
こうして俺は、抱えていた言葉をすべて曝け出したのだった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます