第41話 そして女神は生まれ変わる

『ギャァァァァァァァあああ!!!!!』


放たれた閃光が女神を包み込む。徐々に黒いものが剥がれ落ち、やがて真っ黒な女神像が現れた。ゴトリと重たい音をさせて床に落ちた女神像は、サラサラと砂になって消えていった。


そして、消えた女神像のあった場所には桃色の光の玉がフワフワと浮かんでいる。おそらくあれが女神の本体なのだろう。


「…ふぅ、初めてだったけど何とかなって良かったー!でも眩しかった…って、えええええ?!」


達成感を感じつつ後ろを振り返ると、教皇も王子も、そして父までもが両手で目を押さえて床に転がっていた。


あっ、やっちまったな?コレ。


その後、慌てて全員の治療をしたのは言うまでもない―


「目がぁぁぁ」状態の三人を治療し椅子へ座らせ、倒れている護衛達を外に控えていた者に運ばせて誰も部屋に入らないよう手配をする。


「ふぅ、肝が冷えましたわい」


新しく淹れたお茶を飲んで一息ついた教皇がそう言うと、ふよふよと浮いたままの光の玉に目をやる。


父と王子は先程から黙りこくったままだし、教皇は真面目な顔をして光の玉を見つめている。俺は、何とも言えない居心地の悪さを感じながらお茶を飲んでいた。


やがて、王子が口を開いた。


「この…光の玉は何なのでしょうか」


まぁ、そりゃ疑問に思うよね。謎の光る玉がずっとフワフワしてるんだもん。玉の正体を教えようと口を開いた瞬間、鈴のなるような美しい声が部屋に響き渡った。


『…私はアムディ。かつて愛と豊穣の女神として神界に在ったモノ。アムティエルデュニエールより分かたれたモノ…』


しゃべったぁぁぁぁ!!!!っていうか、起きてたんだね?!ビックリして叫びそうになったのを堪えた俺エライ。


光の玉が名乗った瞬間、王子達が一斉に椅子から降りて跪いた。俺も慌てて膝をつこうとすると、光の玉が形を変え人の姿になった。


艷やかなピンクゴールドの髪に、大きくて綺麗な金の瞳。透き通るような白い肌に桜色の薄衣が幾重にも重なり、片脚がほぼ露出するほど深くスリットの入ったドレスの裾は風もないのにユラユラと揺れている。


そして、お胸がとってもすごい。布のせいか、よく見ると色々と透けて見えそうでドキドキしちゃう。


女神は滑るようにフワリとソファの近くまでくると、正座をして指をついて深々と頭を下げて―


『たいっっっっっへん、申し訳ありませんでしたぁぁぁぁぁ!!!!!!!』


まさかの土下座謝罪ーー!!!!


そして、部屋の中には見事なスライディング土下座をかました女神と、その様子に呆気にとられている俺達という不思議な構図が出来上がっていた。


いち早く正気に戻った教皇が、一先ず全員をソファに座らせてお茶とお菓子を追加する。


その間、女神はベショベショと泣き続けている。仕方がないので同性の俺が女神の隣に座って、背中を擦りつつ泣き止むのを待った。


『迷惑をかけてごめんなさい…そして、ありがとう。貴女のお陰で目が醒めたわ』


グシュグシュと鼻をすすりながらポツポツと女神は語りだした。生まれたときの事、狂気に染まりかけたときの事、愛する神に出会ったときの事、そして―


「歪んだ祈りで狂気に染まる…というワケか」


明かされた事実に空気が重くなる。人の祈りで神が狂うということは、他にもアムディのような神が存在する可能性があるという事だ。そして、魔王の真実と消えた死と闇の神の行方。


「はー、女神の意図が見えた気がする」


女神は世界を旅して瘴気をはらって欲しいと言っていた。『魔法を使ってくれれば良いのよ〜』なんて軽く言っていたが、祈りで狂った神達もアチコチで何かしらの問題を引き起こしつつあるんだろう。


そして、俺にその神々をどうにかさせたいんだと思う。それなら最初から言ってくれれば…断ってたかもしれないな。うん。


しかし、人の心はどうしようもないからなぁ。俺だって欲にまみれているし、何なら『楽して稼げますように』とか神様に祈っちゃうもんね。それが毒にも薬にもなるって知ったら迂闊にお祈り出来なくなっちゃう。


『自分達の欲望の為に祈りを捧げるヒトもまた、私は愛しく想えるわ。でも、神によっては嫌がるし、神界に在れば多少の狂気はすぐに払えるの。私の場合は祈りが狂気を孕みやすいのと彼を愛してしまったからね』

「へぇ〜、今はもう大丈夫なの?」

『貴女が容れ物ごと祓ってくれたからね。…そういえば、貴女は亜神なのね?』

「あ、わかっちゃった?」

『堕ちたとはいえ、私は古き神の一柱ですもの。それくらいはわかるわ』

「セラティア様は女神様がこの世界に遣わされたのです」

『そう…彼が消えたからなのね』

「あー、なんか魔王作ってた神が出奔したからとか言ってたな」

『…そうなの』


アムディがまたションボリしてしまった。背中にそっと手をおいて様子を伺っていると、正面から咳払いが聞こえてきた。


ハッとして顔を上げると、何だか置いていかれたような顔をした父と王子が座っている。


…二人の存在、忘れてたぁぁ!!

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