第36話 王宮へ

「アシェラッド・セラティア・フォーサイス嬢。第一王子殿下からの招へいである。速やかに参じよ」

「私、アシェラッド・セラティア・フォーサイスは第一王子殿下からの招聘に応じ、これより王宮へと参ります」


王宮からの迎えが来た。やたら豪華な馬車には王族の紋が刻まれていて、ひと目で誰の馬車なのか分かるようになっていた。


迎えに来たのは王宮の魔導士団長リアム・ウォルテート・フォーサイス子爵。つまり、俺の父だ。


親子であっても、王族からの正式な呼び出しなので規則に則った挨拶を交わす。非公式の場合はもっと普通なんだけどね。


馬車に乗り込むと、父がふぅっと息を吐き出した。


「久しぶりだね、アーシェ。ドレスもとても似合っているよ」

「ありがとうございます、お父様」


エマ女子から届いたのは、薄紫のパフスリーブのAラインワンピース。スカート部分には濃い紫のシースルー生地が重ねられていて、歩く度にフワリと風に揺れる。上着は光沢のある白地に濃い紫の刺繍が施されたケープだ。


ちなみに、髪はハーフアップにして、ドレスと同じ紫に白と青を加えた花飾りを付けている。ドレスのデザインや記事については俺も意見を出したが、エマ女史が物凄く感激した様子でメモを取っていたのが印象的だったな。


華美すぎず、かと言って格式の高い場所でも見劣りしない絶妙なデザインのドレスは俺もお気に入りの一着だ。


「ところで、アーシェは第一王子に何をやらかしたのかな?」

「何もしてませんっ」


ホントに何にもしてないんだよぉ〜!


「あの方は真の天才だが、天才とは時に人の常識を越えるからね」

「あはは…」


そうこうしているうちに馬車は王宮の中へ入っていく。通常は王宮手前の門で厳しいチェックがあるのだが、王族の馬車だからそのまま奥まで進めるのだ。


「着いたようだね」


ずいぶんと奥まで進んだが…ここは王宮のどの辺りなんだろう?


「ここは『水晶宮』と呼ばれる王族の居住区だよ」

「えっ、そんな場所に入って良いのですか?!」

「そうだねぇ…殿下は学生の身分だし、御学友はこちらに招かれるからアーシェが訪れても問題はないよ」

「そうですか…」


馬車を降りると、建物の前に数人の大人が立っているのが見えた。


「アシェラッド・セラティア・フォーサイス様ですね。第一王子殿下がお待ちですので、こちらへどうぞ」


侍女らしきヒトが王子の所まで案内してくれるようだ。…が。


「…なぜお父様もいらっしゃるのですか?」

「それは殿下に聞いてもらえるかな?」


何故か父も一緒に案内される。どゆこと??


「殿下、フォーサイス子爵とアシェラッド様をお連れしました」


建物内は古さはあるがどこも洗練された美しさがある。王族の私的な場所なだけあって、過ごしやすそうな造りだ。


「やぁ、わざわざ足を運んでもらって済まないね」

「本日はお招き頂きまして、有難うございます」

「そんなに畏まらなくて良いよ。私がお詫びのために呼んだのだからね」

「はぁ…」


そういえば、眼鏡先輩が居るはずだったが…姿が見えないな。あとから来るのかな?


「クレストは来ないよ」

「えっ?」

「実はアシェラッド嬢に頼みたいことがあってね。申し訳ないが、クレストを利用させてもらった」

「殿下。私も呼ばれたのは、その『お願い』に関することですか?」

「そうだよ」


王子がニッコリと微笑みながらこちらを見ている。胡散臭いし嫌な予感しかしないんだが…一体何をさせたいんだ?


「…アーシェ。?」

「え?何がでしょう…」

「ほら、ね?」

「確かに、アーシェなら適任かもしれませんね」


父がやれやれといった感じでこちらを見る。全く話が見えないんだが…


「どうだろう。受けてもらえないかな?」

「それは…娘次第ですね」

「え?え?」


二人の間で勝手に話が進んでいく。一体何がどうなってんだ?!

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