第35話 呼び出しと隠し部屋

「アシェラッド・セラティア・フォーサイス嬢。ウォルティス王国第一王子グレイシア・ジュード・ウヌ・ウォルティス殿下より招へいである」

「謹んでお受けいたします」


こんなやり取りをしたのはエマ女史の店を訪れてから一週間ほど経った頃だった。昨日のうちに服が届いて良かったぜ…。


「明日の午前に王宮より迎えを寄越すので、それを待つようにとの事です」

「えっ、そんな自分から参りますのに…」

「何やら自分が迎えに行くと言って聞かないヤツが居るからね」

「あっ…なんかスイマセン…」

「ははは」


王宮からの呼び出しは儀礼に則った文言でのやりとりをしなければならないのだが、それ以外は割とフランクだ。というのも、目の前に居るのは王宮近衛騎士で、父とは学院時代の同級生。何度か我が家に来ているので俺とも面識があるのだ。


「それにしても、殿下がご令嬢を王宮へ招くなんて珍しい…というより初めてじゃないかな?」

「そうなんですか?」

「御学友はいらっしゃるけれど、ご令嬢を一人だけで呼ばれるのは私が知る限りでは初めてだね」

「あれ?クレスト先輩もいらっしゃると聞いてますけど…」

「そうなのかい?まぁ、それでも特別な呼び出しには違いないからね」

「…今からでも断れますかね?」

「はっはっはっ、無理だね〜」

「デスヨネー」


やっぱ、無理かー。


まぁ、もついてくるっぽいし…変に目立つような事は無いよね。


使者を見送って部屋へ戻る。


「さーて、やるぞ〜」


部屋の角にに木製の掃除用具入れが置いてある。普通に開けると掃除用具しか入っていないのだが…


掃除用具入れに付いているレリーフに魔力を通して扉を開けると、そこに掃除道具はなく広い部屋が出現していた。


「よしよし、大成功だね〜」


中に入って部屋のドアを開けると、そこには大きめの木樽がいくつか置いてある。

片方は醤油樽で、もう片方は味噌樽だ。中身はまだ入ってないけど。


この一週間何をしていたかと言うと、スキルを駆使して隠し部屋を作ったのだ。


と、いうのも食材探しをしている時にふと気が付いたのだ。


「味噌と、醤油って…結構臭うよね?」


田舎の醤油屋の周辺は独特の匂いがしていたのを思い出した俺は、調味料づくりの前にニオイが漏れない場所の確保をすることにした。


とはいえ、新しく部屋を借りるわけにもいかないし王都の屋敷に戻ってもチート技を使っての調味料づくりはあまり見られたくないし母が許さないだろう。


なので、寮の部屋を拡張することにしたのだ。


そこで、買い物途中で見つけた掃除道具入れに目を付けたってわけ。


『創造』スキルで掃除道具入れの中の空間を拡張して、『クラフト』スキルで部屋を作る。空調にも力を入れたので、隠し部屋のニオイ対策もバッチリだ。


万が一、誰かがこの部屋を訪れても良いように扉にレリーフ型の魔道具を仕込んで、俺の魔力を通さないとこの部屋へ入れないようにした。


部屋を作るついでに、味噌と醤油を仕込む樽も作っておいたのでいつでも作業が始められ…無いんだよな。いや、コンソメは作れるんだ。


ただ、醤油を作る為には『麹菌』が必要なんだが…コレの用意に少々苦戦していた。


『創造』スキルなら醤油も味噌もすぐに作れるが、それでは味気ないし市井に広まってもらわないと俺が大っぴらに食べられないからだ。


家族に知られたら絶対出どころを探られるに決まってるからね。


うーん、学院の森で探してみるかなぁ。

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