第34話 懐かしい味と夏休みの過ごし方
俺の目の前には、ホカホカと温かい湯気を出したツヤツヤと光り輝く白い飯がある。
ご飯のお供は天ぷらだ。緑茶も用意したぞ!
米を買った時に箸やお椀などの食器類も購入しておいたんだよね。味噌汁や天つゆは無いけれど、それでも懐かしいその香りは俺の心を望郷の念に駆り立てるには十分だった。
ゆっくりと箸で白米を掴み、口に運ぶ。
炊きたて熱々の白米を噛みしめれば、優しい甘みが口いっぱいに広がっていく。
「〜〜〜〜っっ!!!!」
言葉にならないほど美味しく感じるのは何でだろうな。
野菜の天ぷらはシンプルに塩で食べる。野菜のフリッターはあるんたが、天ぷらとは違うんだよな。
一口噛めば、サクッとした食感と野菜の水分がジュワっと溢れてくる。塩しか付けていないがそのシンプルさが野菜の旨味を引き立てている。
とり天はタルタルソースに付けて食べる。マヨネーズの酸味がいい塩梅だ。コショウの風味がタマゴのコクを引き立てていて、鶏肉の旨味を底上げしてくれる。
とり天の余韻が残る口の中に白飯を入れれば、無限に食える気がするぞ。
とはいえ、身体は6歳児。全部は食べ切れないので、残った天ぷらは空間収納へ入れておく。この中に入れておけば時間が止まるから、いつでも出来立て熱々を食べられるのだ。
残った白飯は塩おにぎりにしておく。
うーん、やっぱり海苔や魚が欲しいな。出汁も欲しいし味噌も欲しい。コンソメなどの調味料を揃えたいんだよなぁ…
夏季休暇の間に色々と揃えようかな。
コンソメのような洋風出汁は存在してるのだけど、顆粒出汁のような便利な調味料はこの世界には無い。手間の掛かるコンソメスープは高級品なので、平民のスープは野菜の入った塩味のスープが主流だ。
顆粒コンソメって材料があれば家庭でも作れたよな?材料も手に入りやすいものばかりだし、作ってみるか。
ついでに味噌や醤油も作ろう。
そうと決まれば、早速必要なものを書き出していく。
チートな能力も存分に使っちゃうぞー!
モブに徹するあまりスキルは殆ど封印してたけど、誰も居ない間にやりたい放題してやるぜ。
メモを持って出かけようとすると、寮母のメラニーから声をかけられた。
「あら、アシェラッドさん。丁度良かったわ、貴女にお客様よ」
「えっ?」
メラニーの目線の先に見知らぬ女性が立っている。落ち着いたモスグリーンのロングワンピース姿で腰は黒いリボンで飾られている。どこの御婦人だろうか?
「突然の訪問申し訳ありません。私はメルツェ・ラ・エマの遣いでルルと申します。フォーサイス子爵夫人からのご依頼で、お嬢様のお召し物のお仕立ての為に店へお連れするように仰せつかっております。ご一緒いただけますでしょうか?」
「うげぇ…ハイ、ワカリマシタ」
どうやら母のほうが上手だったらしい。根回しが良すぎるよ!!!
メルツェ・ラ・エマは王都でも有名な服飾店だ。トップデザイナーのエマ女史は俺が幼い頃からの付き合いになる。
「アシェラッド様、ご機嫌よう」
「ごきげんよう…」
「さぁさ、採寸をしてしまいましょ!」
「えっ、この間やらなかったっけ…?」
「何をおっしゃいますか!お嬢様はこれからどんどん成長なさるのですよ?毎回採寸しなければなりません」
「えぇ〜」
「ほら、身長も前回から少し伸びてますわよ?」
「えっ、ほんと?」
「えぇ、本当です。この調子だと普段着は少し余裕があったほうがよろしいわね。デザインは大まかに決めてありますから、採寸が終わったら布選びと細かな部分を詰めていきましょ」
身長が伸びたことを喜びつつ、エマ女史に隅々まで採寸され、布やら小物やらを選ばされて夏休みの最初の一日は終わってしまった。
寮に帰る頃にはクタクタだったよ…服なんてあるものでいいじゃん!!
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます