第33話 夏休みだぜ!

「…本当に一人で大丈夫?」

「大丈夫よ。心配しないで」

「やっぱり俺も残ろうかな」

「もう、大丈夫ですってば!」


いよいよ夏季休暇に入った。


早い者は昨晩のうちに寮を出て、その他の者も早朝からバタバタと帰省していった。

俺は寮に残るのでノンビリとその様子を眺めていたのだが、昼頃に兄達が俺を訪ねてきたのだ。これから北の領地へ出発するので、その前に別れの挨拶をしに来たらしい。


兄達は名残惜しそうに馬車に乗り込んで領地へと向かっていった。


夕方になると殆どの生徒が帰省し、寮の中はいつもよりもシンと静まり返っている。


夏季休暇中は職員も最低限しか残らないし、寮の食堂は閉鎖されるので、食事も自分で用意することとなる。


『学びの源泉は誰の前にも等しく与えられるべきである』


という初代学長の理念で、長期休暇の間は図書館が一般開放される。ついでに開放されているルート上にあるカフェも営業中だ。

どちらも朝の10時から夕方4時まで利用できるが、いつもより混むのだとカフェの店員に教えてもらった。長期休暇中は学生店員が増えるのも前世と似ているようだ。


普段は関係者以外立ち入り禁止だから、休暇中に国内最高峰の学院の図書館やカフェへ入りたいと思うヒトは多いのだろう。もちろん、セキュリティは万全だし、図書館とカフェ以外には立ち入れないよう結界が張ってある。


そんなわけで、カフェも利用出来そうにない。


そこで、部屋にミニキッチンを置くことにした。二口焜炉コンロとオーブン、調理台と流しがセットになっている。魔道具なので、魔石をセットすればすぐに使えるのが魅力的だ。


お値段はまぁまぁ高いんだが、俺には教皇経由で販売した魔道具類の売り上げがあるからね。


小さな子供でも一人で運んで設置までやれるんだから、本当に魔法って便利だな。


早速魔石をセットして、問題なく動くかを確認して、食材や調理器具を出していく。ちなみに、今日のメニューは決まっているのだ。


「ふふふふふふふ」


楽しみすぎてニヤニヤが止まらないぜ!


まず、取り出したのは土鍋だ。


この世界にも土鍋が存在していたのには驚いたが、お陰でアレが作れるので良し。


計量カップが無かったので、クラフトのスキルで創り出すと、袋に入った白くてパラパラとした細かい粒の食材を1カップ分ボウルへ移した。


水を入れ、何度か軽く洗ったら新しい水に入れ替えてしばらく放置しておく。


その間に、別の野菜を取り出すと一つずつ丁寧に洗って程よい大きさに切り分けていく。水気を取って一旦収納したら、別の鍋に水を入れて火にかけておく。


最初に水に浸けていたものを取り出して土鍋へ入れる。それから水を適量入れてコンロへ。火を付けたらしばらく放置だ。


その間に、小麦粉と卵と水を混ぜ合わせ、油を張った鍋と湯を沸かしていた鍋と交換する。油が温まる間に、切っておいた野菜を取り出して作った液体に浸す。油が丁度いい温度になったら、野菜を入れて揚げていく。


そう『天ぷら』だ。エビとか食べたかったけど手に入らなかったので我慢。その代わりに鶏肉でとり天を作る。


ジュワァァァァ


音と匂いで食欲がそそられる。


もう一つの土鍋もシューシューと音を立てているが、まだ蓋は開けない。赤子泣いても蓋とるな。ふふふ、中身はアレですよ。ア・レ。


天ぷらが仕上がったら、お湯の入った鍋をもう一度コンロへ置く。お吸い物か味噌汁が欲しいが、出汁が無いので今日はナシ。その代わりに卵を入れてゆで卵を作っておく。一つだけ除けておいた卵をボウルに割り入れて、油とお酢を加えて全力でかき混ぜる!


作っているのはマヨネーズ。昔、調理実習で作ったな…なんて懐かしく思いつつ混ぜていると、土鍋から香ばしい匂いがしてきた。火を止めてしばし放置。


かき混ぜていたモノとゆで卵を潰しながら合わせ塩コショウで味を整えればタルタルソースの完成だ。


皿に天ぷらを乗せて、タルタルソースは別添え。土鍋の蓋を開ければツヤツヤの白米が見えた。


ちょっと不安だったけどちゃんと出来てるー!!!!久しぶりの白飯だぁー!!!!


嬉しすぎてちょっと泣いちゃったよ。

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