第32話 長期休暇にむけて
この世界にも長期休暇がある。
と、言うのも貴族家の子供たちが学校に通っている間、親は王宮で貴族会議や貴族同士の繋がりのためにお茶会やパーティーをする。いわゆる、社交シーズンというヤツだ。
王都でのシーズンの終わりは初夏。7月の半ばに王宮で大きなパーティーが開かれて解散となる。その後、貴族達は社交の成果を持って領地へ帰り仕事をする事になる。
領地を持たない貴族達は王都に残るが、彼らは大抵商会を持っているか、文官や騎士として王宮で働く者達なので遊んで暮らしているわけでは無い。
学院では、大人の社交シーズン終わりのタイミングで夏季休暇に入る。夏から秋にかけて各領地では狩猟やパーティーが行われるのだが、これは親族や派閥の繋がりに重点を置いた第二の社交シーズンなのだ。
王都での社交と違って、領地での社交は子供達も参加が認められている。勉強も兼ねているが次世代同士の繋がりの為だ。貴族子女にとっては重要な時期になるので学院はこの期間休みになる。
夏の終わりになると、子ども達は家族と離れて学院へと戻る。
そして、冬になると今度は冬期休暇に入る。寒い時期は社交に向かないし雪の多く降る地域では早めに帰らないと馬車移動が困難になるからだ。12月の末頃から新年明けて最初の一週間はどの領地も新年を祝う祭りが行われ、誰も彼もが浮足立つ。こちらの世界にクリスマスは無いが、何処か浮足立った空気は前世での街の雰囲気と似ていると思う。
冬期休暇は1月末まで。社交シーズンに向けた準備のために母親と子供達だけが先に王都へやってくる。3月の半ばに卒業式が行われ、そこから4月まで短い休みだ。
4月の最初の日には『
そうして新たな社交シーズンに入り、子供達も入学式を迎えて新たな学院生活が始まる…というシステムになっている。
そして、俺は今究極の選択を迫られていた。
「うぅむ…どうしたもんか…」
ことの発端は、俺宛に届いた手紙だ。
一通目は実家から。夏の社交で婚約者候補との顔合わせを行うと書かれている。
二通目は第三王子。夏の間、王領へ向かうので良ければ同行しないか?とある。
三通目は第一王子。先日の同級生の無礼のお詫びに、王宮へ招待したいとある。
四通目は教皇から。夏の間に聖地巡礼の旅に『聖女』として来て欲しいとある。
正直、どれも断りたい。
「うぇぇ…こんなの選べないよぅ…」
どれを選んでも面倒な事になる予感しか無かった。この中で一番マシなのは…コレかな。他の手紙もこれなら断わりやすいだろう。
うぅ、胃が痛いぜ…
◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇
「アーシェ、家に帰らないって本当かい?」
断りの手紙を書いて数日。明後日から休みに入るというタイミングで兄達から詰め寄られてしまった。
「申し訳ありません。王族からのお詫びを受けないわけには参りませんし…」
「それはそうだが…一体何があったんだ?」
「実は―」
森であった出来事を簡単に兄達へ説明する。話す間に兄達は頭が痛いような素振りをしていたが、それは俺も同じだ。断じて俺のせいではないし、俺は何もやらかしてはいないぞ!
「め…クレスト先輩も同席されますしワザワザ第一王子が席を設けて下さったのでお断りするわけにもいかないでしょ?」
「それはそうだが…はぁ、母上には私達からも伝えておくが、自分の口でちゃんと報告するんだよ?」
「もちろんです。…王宮にはお父様とお兄様も居ますし大丈夫ですわ」
「大丈夫…かなぁ」
変なフラグを立てるのはやめて頂きたい。
母には『第一王子から王宮へ招待されており、今夏は寮にて過ごさせていただきます』と返事を書いておいた。第三王子からの手紙も同じ内容。ちなみにウソはいってないぞ?いつ呼ばれるかは本当にわからないからね。
教皇宛には『聖女にはならん。お土産よろしく』とだけ送っておいた。聖地巡礼はちょっと気になるがまたの機会にしてもらおう。聖女にはならんぞ。
母からは『そういう事情なら仕方ないわね。先方には断りを入れておくわ。そうそう、貴女からの手紙を読んだお父様が面白いお顔をしていたの。アーシェちゃんに見せられないのが残念です。それと、殿下に失礼のないよう、装いはエマの店へ行って整えるように。いいわね?』と書いてあった。
まぁ、これで一安心…といったところかな?
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます