第31話 大変な目にあった…

ぬいぐるみ状態で拘束されているが、そろそろ帰りたい。


そう思っていると、教室のドアが開いた。


「おやおや、珍しく揃っていると思ったら見知らぬお客さんが居るようだね?」


そこに立っていたのは青と白のローブを纏った黒髪の男性だった。はて、何処かで見た気がするな…どこだっけ?


「ナサニエル先生」


うわ、先生まで来ちゃったよ。これ部外者が居たらダメなんじゃない?怒られるんじゃ…


「彼女はクレストが連れてきた生徒です」

「なるほど、もっと早く連れてくると思ったけど…」

「ふぇ?」

「いや、何でもないよ。レティシア君、そろそろ離してあげなさい」

「ぅ…仕方ない…」


ようやく開放されてホッとする。


「アシェラッド・セラティア・フォーサイス君、私のクラスの生徒達がすまなかったね」

「いえ…」

「さ、教室まで送ろう」

「あ、一人で帰りますから…」

「…帰れるかい?」

「?えぇ…大丈夫です」


何だか目の奥がキラリと光った気がするけど…迷子になるとか思われてんのかな?転移で連れてこられたけど、自分がどの辺りに居るかはちゃんと把握しているので問題ない。


「では、またね」


殿下に見送られて教室の外へ出る。足を一歩出した瞬間肌がピリピリとした。ふむ、どうやらこの場所は結界か何かで隠されているみたいだね。たぶん、資格のある人しか入れないモノなんだと思うけど普通に抜けられたので良くわかんないな。


どんな術式なのかは気になるけれど、また眼鏡先輩が飛んできたら困るので視るのはやめておこう。何だか小腹も空いたし、構内のカフェにでも寄ろうか。


この学院、食堂とは別にカフェやちょっとした商店なんかも揃ってて学院内だけで生活が整えられるようになっている。主に寮生が利用しているんだけど、上の学年になると泊まり込みでの実験や研究なんかもあるから、利用者はそれなりに多い。


ちなみに、許可さえ貰えば学生が店舗を出すことも可能だ。これも教育の一環なのだとか。商会の子女にとっては店舗経営を学ぶ機会になるし、貴族家の子供にも良い小遣い稼ぎの場になっているようだ。


カフェに足を運ぶと、リュリーナ嬢達の姿があった。テイクアウトにして寮に帰ろうかと思ったが、呼ばれたので輪の中に入れてもらう事にした。


「アーシェは乗馬のあとどこに行ってたの?」

「えーと、森を散策していたの」

「そうなのね、そういえば上の学年になると森の中に入っての授業もあるんですって」

「そうなの?…私はあまり行きたくないなぁ」

「ソフィは動くのが苦手だものね」

「アンナは?」

「私は父が騎士だから身体を動かすのは得意よ」

「ウチは辺境へ商品を届けに行く事があるから森の中も歩けるわよ」

「へぇ、すごい」


そんな感じで女子トークに花を咲かせているとあっという間に帰宅時間になってしまった。


「それでは、また明日ね」


彼女達を見送ってから、俺も寮へ帰る。何だかすごい一日になってしまったが、終わり良ければ全て良し。部屋でゆっくり過ごそうっと。


◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇


「彼女はどう視えましたか?」


学舎から出ていく彼女を見下ろしながら黒髪の教師が眼鏡先輩にそう尋ねる。


「興味深くはありますな。触れてもので」

「なるほど、意図的に隠していると?」

「えぇ、明らかに拒絶されましたからな。お陰様でしばらく技能が使えません」

「ふむ、それは困ったね」

「グレイシア君はどうかな?」


同じく、窓の外を見つめていた第一王子は目を逸らさず彼女の背中を見つめている。


「アシェラッド…か」


彼女を見つめる瞳には何処か楽しげな色が浮かんでいたのだった。

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