第30話 奇人変人の巣窟ってコト

「クレスト。このお嬢さんは誰なんだい?」

「む。そういえば、君は誰かな?」

「えぇと、白の『ルーノ』でアシェラッド・セラティア・フォーサイスと申します」

「フォーサイス?なるほど、君がフォーサイスの妖精姫なのか。髪色が違うのは…なるほど染めているんだね」

「あっ」


しまった、髪色の事忘れてた!鑑定のために眼鏡を外していたのも失敗だったな…


「私はグレイシア・ジュード・ウヌ・ウォルティスだ。君の父君には大変世話になっているよ」

「ひえっ、た、大変申し訳ありません、殿下」

「ははは、そう構えずとも良い。ここは学院の中だし気楽にしてくれ」


このウォルティス王国の王族は『ウォルティス』を名乗るのだが、国王は洗礼名の後に『レゾ』。そして第一子には『ウヌ』が付けられるのだ。つまり、目の前のこの人が第一王子ってこと。


王族が通っているとは聞いていたが、まさか第一王子が『クロテ・スーノ』だとは思わなかったぞ…


「我が級友が済まなかったね。アイツ…クレストは魔術式の権威であるベルデシュタイン家の者なんだが、少々変わり者でね。ただ、才能有る者を見つけ出す並外れた嗅覚は誰もが認めているんだよ」

「はぁ…」

「クレストが君をわざわざ連れてきたと言うことは、つまりそういう事さ」

「…へ?いやいやいやいや、私はたまたまあそこで術式を視てただけで…」


鑑定スキルは特別珍しいスキルではない。俺のは特別製だけど、あそこで術式を視る程度なら普通の鑑定スキルでも良いはずだ。そんなんで『お前デキるんだろ?』みたいな扱いはやめて欲しい。


「うーん、それはあんまり関係ないかな」

「えぇ〜」

「クレスト、彼女を連れてきた理由を聞いても良いかい?」


赤い髪の女子生徒の前で正座させられていた眼鏡先輩が、パッと明るい顔でこちらを見た。


「それはね、私の眼に見えないからだよ!」


その一言で、クラスの雰囲気が変わる。そして一斉に俺の方へと視線が集まった。…ドユコト?


「あの、視えないとは…?」

「クレストはね『真理の瞳』という技能を持っているんだよ」


な、な、な、なんだってーーー!!!!


スキル名『真理の瞳』。俺の記憶が確かなら、神眼に次ぐ強力な鑑定スキルで、魔法やスキルによって隠されたモノも暴く事ができる。


かなり強力なスキルなのだが、自身より格上相手だと隠された部分は文字化けのように表示される…逆に言えば、視えない時点で俺のほうが格上になるって事だ。


スキルの存在は知っているが、まさか学院の生徒にスキル持ちが居るとは思わなかったぜ…。


「なるほどね…それは興味深いな」


第一王子殿下が興味深そうにじっと見つめてくる。


「グレイ…この子…不思議な匂い…」

「うわぁ?!」


王子の視線に居心地の悪さを感じていたら、突然後ろから抱きしめられた。後頭部にとても柔らかいモノを感じる。こ、これは…


「レティ…アシェラッド嬢が驚いているじゃないか。突然抱きつくのはやめなさい」


ガッチリホールドされていて身動きが取れないが、なにやらフンスフンスと匂いを嗅がれている。なにこれ恥ずかしいぃぃぃ!


「ぅん…いい匂い…この子…欲しい…」

「ふむ、レティもか」


レティと呼ばれたのは俺を抱きしめているヒトだ。


「あ、あの…そろそろ離して…」

「ゃだ」

「えぇぇ〜」


何だか自分が縫いぐるみになった気分だ。


レティと呼ばれた先輩は相変わらず俺を抱きしめて離さないし、第一王子は俺を見つめてニコニコしてるし眼鏡先輩は赤髪先輩に叱られてるしでカオスな空間が出来上がっている。


教室内に居る他のヒト達もそれぞれが思い思いに過ごしているようだが、何でこの状態で普通に過ごせてるんだ?ここの人達はフリーダムなの?これが日常茶飯事なの?


このクラスは一体どうなってるんだ…?


誰かタスケテ…

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