第29話 クロテ・スーノ

「いやー、ココに目を付けるとはなかなか優秀な新入生だな!」

「え、あのどちら様で…」

「うんうん、そうだろう!ココの部分だけんだろう?分かっているとも!」

「は?いやその貴方は…」

「わかる、わかるよ君!この遊歩道に施されているのはね『自然環境完全再現空間拡張術』と『歩行者階級別魔防結界術』、それから―」


術式の名前がなげぇ!!!あと、この人俺の話聞いてないな?!


「ほら、ここをよくご覧?この部分だ。ここには私が開発した『術式鑑定者連絡信号術式』が施してあるんだ。これによって、君がこの術式を鑑定した瞬間に私がすぐさまここへやってくることが出来たのだよ!」

「術式鑑定…えっと?」

「『術式鑑定者連絡信号術式』だ!」

「えーと、誰かがこの場所を鑑定したら先輩に連絡がいく術式…という事ですか?」

「そのとーーーーーり!!!!」

「ひえっ」

「実に素晴らしい理解力だ!!!」

「はぁ…」

「よし、では行こうか!」

「行く…って、えぇぇぇぇぇ!!!!」


眼鏡先輩が突然俺の腕を掴んだかと思うと、そのまま転移の術式を展開した。腕を振りほどく間もなく、俺は何処かへと転移させられてしまった。


気構えなしの転移は三半規管に影響を及ぼす。日頃から転移慣れしているなら問題はないが、俺は教皇の所へ行く時にしか使わないからね。他の人よりは耐性はあると思うが、それでも目が回ってしまった。


「ちょっと、クレスト!一体何処に…って、んん?」


どうやら何処かの部屋に連れてこられたようだが、目が回っててそれドコロではない俺はその場に座り込んでしまう。


「ねぇ、ちょっと大丈夫?クレスト、この子は?」

「私の刻んだ術式を鑑定した者だ!どうだ、素晴らしいだろう!!」

「馬鹿!この子転移酔いしてるじゃない!」

「うぅ…だ、だいじょぶ…でふ…」

「いやダメでしょ。ちょっと失礼するよ」

「ふぇ?」


フワリといい香りがしたかと思ったら、誰かに抱き上げられてしまった。


「ああああのっ、自分で歩けますぅぅ!!」

「ふふ、可愛いねぇ」

「ぴぇ…」


お姫様抱っこなんて、オッサンにはハードルが高すぎるんだよぉぉぉ!!


転移酔いも相まって俺の頭はオーバーヒート気味だ。スキルさん、仕事して??


「さて、クレスト。説明してくれるかな?どうして、このお嬢さんを釣れてきたんだい?」

「はっはっは!良くぞ聞いてくれたな!この娘は私が森の遊歩道に仕掛けた術式を鑑定したのだよ。私の術式は遊歩道の術式に違和感を覚えてより詳しく見ようとする者に反応して私へ信号を送るんだ。しかも、術式への理解力に加えて一定の魔力と鑑定力が無ければ到底発見することは出来ないモノなのだ。どうだ、素晴しいだろう?術式についてさぞ造詣が深いに違いない。だからこうして私の教室で語らおうと思って連れてきたのだよ」

「あー、つまり術式に詳しそうだから連れてきたんだね?」

「ふむ、そうとも言うな!」


何なのこの人…(泣)


「あの、勝手に入って申し訳ありませんでした。ここは皆様の教室…ですよね?」

「君が謝らなくて良いんだよ。有無を言わせず連れてこられた被害者なんだから」


ようやく頭がはっきりしてきたので、周囲を見渡してみた。教室…にしては広くて古めかしいがとても居心地の良い空間だ。そんな中に数人の生徒がいる。


俺を連れてきた眼鏡先輩と、その前で腕組みしているのは赤い髪に紅い瞳の小柄な女子生徒だ。そして俺の真横にいるのは暗い銀髪にブルーグレーの瞳が印象的な青年。その他にも離れた場所から何人かがこちらを見ている。


タイの色はバラバラだが、クラス章は皆が同じものをつけている。つまりここは…


「『王冠と太陽クロテ・スーノ』の教室…」


どうやら俺は、とんでもない場所に連れてこられてしまったらしい。


早くお家に帰りたいよ!!!!

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る