第27話 そろそろ友人がほしい

「友達欲しい…」


モブに徹しようと心に決めていた俺だったが、流石に周りがキャッキャウフフと楽しそうにしている中でボッチなのが何だか淋しくなってきた。


そもそも、モブでも別にボッチである必要は無いんだよな…失敗した。完全に初動を誤ってしまった。こうなったら潔くボッチを極めるか、イマジナリーフレンドでも作るか。


「ヒヒン!」

「おっと、そうだね。貴方は私のお友達だもんね」

「ブルルッ」


選択授業の乗馬では、生徒がそれぞれ相棒となる馬を一頭選ぶのだが…


「ヒヒン!!」

「えっ」

「おや、ブリーツィアが興味を示すなんて珍しいこともあるものだ。この馬は英雄が乗った魔馬エルドランの血統なのだが気難しくて乗せる者を選ぶのだよ。しかし、大変優秀な馬だし自ら選んだ者には従順だから安心して乗ると良いよ」

「はい、ありがとうございます」


最初の授業で、馬達と対面すべく馬房を訪れた時に小屋の一番奥で静かにこちらを見つめていたのがこのブリーツィアだ。一通り馬の説明が行われている中で、突然服を掴まれてそのまま俺が乗る事になってしまった。


乗馬講師の言う通り、このブリーツィアはすごく頭が良くて乗り手の意図を正確に理解してくれる。それに、馬に乗り慣れていない俺を気遣いながら絶妙な力加減で走ってくれるので大変乗りやすかった。


当然ながら、馬の世話も授業に含まれるのだがこのブリーツィアに乗れる生徒は殆どおらず、本来なら交代で世話をすれば良いはずが専属の世話係のようになってしまったのは誤算だった。


他の生徒の手が借りられないので、厩舎にいる馬番と呼ばれる厩舎全体の管理をする大人達が世話のサポートをしてくれている。なので、必然的に大人の方が顔見知りが多いという状況となっていた。


友だちが欲しいと嘆いた俺にブリーツィアが「私達がいるでしょ!」と慰めの言葉をかけてくれたが、俺が今欲しいのは動物や大人じゃなく同年代の友人なんだよね…


ブリーツィアは「確かに、たくさんの友達を作るのは良いことね」と納得したかのように「ヒヒン」と一声鳴いた。


ちなみに、ブリーツィアは乗るヒトを選ぶのだが仲間想いの優しい馬で、他の馬とも楽しそうに交流している。…悔しくなんてないぞ。


毎日の生活に『馬の世話』が加わったことで必然的に図書館へ通う頻度は少なくなっていた。まぁ、まだ入学して1年目だし急いで図書館の本を読む必要もないからね。


馬達の世話をしていると、新しい出会いもあった。


「きゃっ」

「うわっ…と、危なかったー。ねぇ、大丈…あれ?リュリーナ様?」


ブリーツィアの世話をして、水の入ったバケツを持って厩舎から出ようとした所で他の生徒とぶつかってしまった。


何とか水は溢さずに済んだが相手は尻餅をついてしまっていたので、慌てて膝を付くと入学試験の時に出会ったリュリーナ様がそこに居たのだ。乗馬服を着ているので、どうやら彼女も同じ授業を選択しているようだ。


「申し訳ありません、よく確認もせずに…」

「いえ、私がよく見ていなかったのが悪いのです。リュリーナ様のせいではありませんよ」

「え…と、貴女は…?」

「あ、そうでした。理由あって髪色を変えているのですがアシェラッドですわ」

「あっ、アシェラッド様!?えっ、髪色…あれ、えっ?」


眼鏡を外して名乗ると、見るからに混乱しだしたリュリーナ嬢。緑の瞳が真ん丸になっているね。襟元のクラス章をみると、どうやら『ステーロ』クラスに在籍しているようだ。いいなぁ、『星』クラス…。


「それにしても、なかなかお見掛けしないと思っていたらまさか髪色が違ったなんて驚きました」

「あはは…ごめんね?」

「私、アシェラッド様を探してたんですよ?」


リュリーナ嬢が可愛く頬を膨らませている。


厩舎で再会してから、昼食時にこうしてリュリーナ嬢とお喋りするのが日課になったのだ。入学試験の時はそこまで話してなかったのだが、好きな本や乗馬など共通の話題も多く、あの時よりだいぶ仲良くなれたと思っている。


リュリーナ嬢もかなり打ち解けてくれていて、こうして気易く話してくれるのが嬉しい。それと、見た目はおっとり系なのに下に小さな弟や妹がいるのでかなりのお姉ちゃん属性なのだという事が分かった。


末っ子な今の俺は見事にリュリーナのお姉ちゃんセンサーに引っ掛かったのである。

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