第26話 王子はフラグを立てられない

「それで、具体的にはどうしたら良いと思う?」

「具体的に…ですか?」


うーん、農業にはそこまで明るくないから聞かれても困るんだが…。


「私は農業には明るくありませんから、間違っていても許してくださいね?」

「もちろんだよ、アーシェの考えが聞きたいんだ」

「私がもし何かを育てるなら…で話しますが、まず育てたい作物毎に部屋を分けます。それから、その作物の種を植えてから収穫までの気候を再現します。あとは農家の方に聞きながら適切な水の量と肥料や栄養剤などを利用して一定の品質と収穫量を目指しますわね」

「なるほど…確かにそれならどのような土地でも作物は育てられるだろうね」

「作物だけでなく薬草も育てられるかもしれないな。そうすると、今は高価な薬品類も安く販売出来るかもしれない」


兄達が何やら考え込んでいる。貴族の娯楽で使われている魔道具は高価だし機能も実用的ではないからな。技術転用という概念が無いから誰も思い付かなかったのかもしれない。


その可能性に気付いた者も居るとは思うんだけどなぁ。


その後はどんな野菜が育てたいか、好きな野菜や料理の話で盛り上がり昼食会は終了した。


「そうだ、アシェラッド嬢ちょっといいかな?」

「はい、何でしょうか?」

「君のクラスで、図書館をよく利用する生徒はいるだろうか?」

「図書館ですか?私は存じ上げませんわ」

「そ、そうか…足を止めて済まなかったね」

「?…では、失礼いたします」


図書館か。俺は良く通うけど、他に通ってる生徒は見てないと思うんだよな。この世界の子供も本はあまり読まないらしいが、王子は読書好きなのかな?読書仲間を探してるのかもしれない。クラスの女子にそれとなくリークしておくか?…いや、図書館が煩くなるのはダメだな。


そういえば図書館で読みたい本があったんだっけ。午後の授業まで時間もあるし、ちょっと寄っていくか。


いつものように図書館へ向い、目当ての本を探し出すと2階の出窓に腰掛ける。ウェストポーチ型のマジックバッグからブランケットとクッションを出して準備完了だ。


今日の本はケビン・グロウラー著「世界の伝承」これは各地に残る伝承を纏めて、彼なりに考察した本だ。一見すると真面目な本のようだが、中身は都市伝説的な話ばかりなので俺は娯楽本として読んでいる。


【雪山に生息している毛むくじゃらの大男】とか【目にも止まらぬ速さで飛行する生物】とか【湖に棲む伝説の海獣】とか…少年心くすぐるラインナップなんだよ。魔法のある世界だし、前世より信憑性が増しているのもポイントだ。


三分の一ほど読み進めて時計を見ると、そろそろ午後の授業が始まる時間になっていた。手早く片付けてその場を去ろうとすると、近くに人の気配を感じた。


「やぁ、君は1年生かい?ずいぶん熱心に読んでいたね」


声の主の方を見ると、なんと第三王子がそこに立っていた。護衛はどうやら離れた場所にいるらしい。礼をしてすぐにその場を離れようとしたら王子に呼び止められてしまった。


「まって、君と話がしたかったんだ」


えぇ〜、なんでここに居るんだよ。しかも話しかけられちゃったし。こっちは授業時間が迫ってるからノンビリしてられないんだが…


「この間、ここで眠ってる君を見かけたよ」

「アッ、ソウデスカ…」

「あぁ、驚かせてごめんね?僕が読もうとしてた本を君が膝に乗せてたから、ちょっと気になってたんだ。君もジパングに興味があるの?」

「イエ…」

「あの本を読んでる人に出会ったの初めてなんだ。良ければ意見交換したいんだけど…」

「ソンナ、オソレオオイデス」

「ここにいる間は皆と同じ学生なんだし気にしないで。…そういえば、栞を残しておいたんだけど気づかなかったかな?」

「栞…?」

「あれ?おかしいな。僕の印があるから気付いてもらえると思ってたけど…」

「栞ハ落トシ物トシテ届ケマシタ。ソレデハ失礼シマス」

「えっ、落とし物って、えっ」


ポカンとしている王子を置いて、さっさとその場から離れる。髪色と声を変えてるからバレてはないはずだが、あんまり顔を合わせるのはまずい。あと、授業に遅れちゃう!


居眠りを見られてたのは失敗だったな。別の場所探さないとダメかぁ〜。いい場所だったのに勿体ない…。


そういやあの栞は王子のだったのか。気味悪かったから司書さんに落とし物として預けたが、わざわざ人の読んでた本の上に置いていくとか…そんなにあの本が読みたかったんだろうか?


何がしたかったんだ、第三王子あいつは。

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