第24話 獣と魔獣と魔法生物

教皇の所へ動物達を預けてから数日が経った頃、巷ではちょっとした事件として話題になっていた。


「ねぇ、聞きまして?貧民窟で違法な希少獣売買が行われていたのですって」

「えぇ、売買に関わった貴族が処罰されたとか…」

「そういえば、あの方の姿見ませんわね」

「あら、ご存知ないの?あの方のお父様が…」

「ある日突然、教会に檻が運ばれていたって話だ」

「教皇様の命で神殿騎士団が捜査をして発見したって聞いたぞ?」

「関わった家は重い処分を受けたらしいぜ。上の学年でも、何人か居なくなってるし」


あらやだコワイ。悪いことはするもんじゃないね。


ここは『ルーノ』クラスの教室内。一番前の窓際に座る俺はあちこちから聞こえる噂話に耳を傾けている。


貴族の噂話なんて、自慢か他家の醜聞ばかりかと思っていたが最新の技術についてとか領地運営についてとか意外と建設的な内容だったのには驚いた。


まぁ、冷静に考えたら優秀な生徒の集まるルーノだし貴族子女が腐った奴らばかりだったら国自体ももっと住みにくい場所になるはずだ。それがないって事は、善良な貴族が多いって事なんだと思う。


それでも、中には違法な取引に手を染めている奴もいるんだけどね。これはどこにでもある話だし、別にこの世界が特別ってワケじゃない。ヒトってやつはなんだってだけなのだ。


「さぁ、授業を始めますよ」


そう言いながら教室に入ってきたのは、魔法生物学のレ・シオ講師せんせいだ。『魔導』という授業は、魔法だけに留まらず、魔法生物や魔法陣、魔法薬や魔導具など魔法に関わるすべての事を総合的に学ぶ。まぁ、基礎しか習わないけどね。


「さて、魔法生物と一般的な生物の違いは皆さんご存知?そこの貴方はどうかしら?」

「えぇと、何かしらの魔法を使う動物または植物が魔法生物と分類されます」

「えぇ、そうね。では、体内に魔石を宿す野ウサギ。これは魔法生物かしら?そこの貴女どう?」

「はい。魔石を体内に持つ獣はすべて『魔獣』と呼ばれ、その中には魔法を使う個体も存在します。魔石は魔力が結晶化したモノなので魔獣はすべて魔法生物に分類されると思います」

「その通りよ、素晴らしいわ。では一番身近なウサギ種について―」


この世界の住人にとって切っても切れない存在が、野生の獣達の存在である。何故なら、街を一歩出るとそういった獣達に遭遇するからだ。主要な街道周辺なら、冒険者によって常に安全が保たれているがすべてが安全とは言い難い。なので、自分の身を守る為にもこうした知識は必要不可欠になる。


ちなみに、平民も自分たちの住む街の周辺の生態系についてはちゃんと学んでいる。そうでなければ街から出ることが出来ないからね。


ご近所の奥さんだって、野ウサギや野犬程度なら倒して捌くくらいはやれるのだ。冒険者をやるなら、猪を一人で倒すのが目安と云われている。つまり、前世と違ってこの世界の人達はそこそこ強いって事。


しかも貴族のように学ぶのではなく、生活の知恵として脈々と受け継がれているんだから凄いなぁと思う。平民がそんな感じだから貴族に求められる知識は更に上でなければいけないのは当然のことだろう。


まぁ、内心は平民の仕事なんて知る必要ない…って貴族も居るだろうが。


魔法生物についての授業が終わると昼食の時間だ。今日は兄達に呼ばれているので化粧室でメガネを外し髪色も変えておく。


「やぁ、アーシェ。何だか久し振りだね。せっかく学院にいるというのに、会えなくて淋しいよ」

「ご機嫌よう、ジョシュ兄様。学年が違いますし、仕方ありませんわ」

「学年が違うといっても、アーシェならすぐ話題になりそうなのになぁ。未だに『妖精姫は本当に入学してるのか?』なんて聞かれるくらいだぞ」

「あら、エルド兄様には私が幻に見えているのですか?」

「ふふっ、君たち兄妹は仲良しなんだね」


食堂の特別室で待っていた兄達と久しぶりの会話を楽しんでいると、後ろから誰かの声が聞こえてきた。振り返ると、そこには入学式の時に出会った王子の姿があった。


「おっと、失礼しました。殿下」

「えぇと、お兄様。もしかして…」

「あぁ。食事には殿下も同席されるよ」

「げっ」

「えっ?」

「あら、どうかしまして?」

「いや、聞き間違いかな。さぁ、ここで立っているのもなんだし座りましょうか」


王子がこちらを見てニコニコしている。


兄妹水入らずだと思ったのになぁ。王族も同席なんて、面倒事の臭いしかしないんだよ!

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