第23話 こういうモノは押し付けるに限る

「じーちゃーん、大変だー」

「うひょほ?!」


一応、先に知らせておいたのだが、大量の檻と共に現れた俺の姿に、お茶を飲んでいたらしき教皇が盛大にむせていた。


「じーちゃん、大丈夫?」

「うえっほ……はー、久し振りにあの世を見ましたぞ」

「ごめんね、それでコレなんだけどさー」

「ふむふむ?うーむ、これはまた…」


俺が持ち込んだ檻を見て難しい顔をしている。持ち込んだらマズかったかな?


「これらはすべて違法に取引されているようですな。裏社会の者が関わっておるようです」

「やっぱり…」

「ひとまず、その精霊を開放しなければ」

「あっ、そうだね。このままじゃ可哀相だ」


精霊の入れられた檻をテーブルへ置くと、札をベリッと剥がしていく。


「ちょっ、なんともありませんか?!」

「え?この紙剥がさない方がよかった?」

「いえ、そうではないのですが…」


札に触れる瞬間に黒いモヤが指に絡みつこうとするのだが、肌に触れる前に霧散していく。もしかしたら、触ったら呪われるとかそういった札なのかもしれないな。


すべての札を剥がしたら、檻を開けて精霊に絡みついている鎖に触れる。すると、鎖も黒い霧になって霧散していった。


鎖から開放された精霊が倒れ込むのを手のひらで受け止める。意識はなさそうだが、姿を保っているので死んではいないようだった。


「ほぅ、これは『光』ですな」

「え?」


他の檻を確認していた教皇が精霊の姿を見てそう呟いた。


「他の動物達は、貴族に売られるからか健康状態は問題ナシです。が、大人しくさせるためなのか隷属の鎖に縛られておりました」

「酷い事を…」

「そして、この精霊は『光』の属性を持っておるようです」

「そもそも、精霊ってこんな風に見たり触ったり出来るものなのか?」


たしか、この世界の精霊は自然の中に溶け込むように存在していて人の前に姿は表さず触れることも叶わない存在だと云われていたはずだ。それなのに、何故檻の中で鎖に縛られていたのか。何故、触れられるのか。


「おそらく、高位精霊なのでしょう」

「高位精霊?普通の精霊より強いって事か?」

「いえ、力の強さではなく存在の違いです」

「存在の…つまり、普通の精霊が空気に漂うホコリだとしたら高位精霊は部屋の隅に集まったホコリって事か」

「例えが酷い」


…例えの悪さはスマンかった。要するに、実体を持たないで生まれる精霊と実体を持って生まれる精霊は似て非なる者なんだな。


「所謂、大精霊や精霊王と呼ばれる存在と同次元の精霊ですな」

「なるほど…」


手の上でグッタリしている精霊を見つめる。流石にこのままじゃ可哀相だし、回復魔法を試してみる。精霊には効かないかもしれないが、試してみる価値はあるだろう。


精霊はナントカちゃん人形くらいの大きさだ。テーブルにハンカチを敷いてその上に寝かせると、両手をかざす。


神の息吹レサディオ


手の周りに光が集まり、精霊の身体がキラキラと輝く。やがて光が収まるとボロボロだった精霊の身体はすっかりきれいな状態になった。


「なんと、精霊を癒やすとは…流石です」

「ここ以外で使う予定はないけどな」


いや、高位精霊を回復させられる魔法なんて外で使ったら大騒ぎどころの話じゃなくなるだろ。聖女には興味ありません。


この世界において、精霊についてはまだ解っていない部分も多い。何故なら精霊と交流できたと云われている人物は伝説の偉人しかいないからだ。


稀代の精霊術師ア・ラマ・ソーウナーノは精霊研究の第一人者で彼女の遺した『精霊のすべて』は今でも魔導の授業で教科書として使われている。だが、そんな彼女すら精霊のすべてを理解していたわけではない。


彼女の本には『』と書かれていたからだ。


実のところ、癒やす術はいくつかある。


俺の使った『神魔法』。これは亜神である俺にしか使えない魔法で、この世界の住人が扱える魔法の最上位にあたる。さっき使ったのはこの神魔法。


ヒトに出来るのは、精霊の好む環境を作ること。簡単なようで難しいのだが精霊は自然からマナと呼ばれる力を吸収して様々な現象を起こしているからね。マナが沢山ある環境を作ってあげれば回復するってワケ。


条件はクソ厳しいけど。


「そろそろ帰らないと。門限に遅れちゃう」

「おぉ、そういえば入学されたんでしたな。この精霊や動物達の事はお任せください。たまにはこちらにも顔を出して下さると嬉しいのじゃがのぅ」

「うん、よろしくお願いします。また近い内に遊びにいくよ」


あとの事は大人に丸なg…任せて、子供は寮に帰りまーす。

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