第22話 楽しい買い物とアカンやつ

「はいよ、お嬢ちゃん。熱いから気をつけな」


露店でアツアツの肉串を買って、齧り付く。味付けはシンプルだが肉汁がジュワっと溢れてきて前歯で噛み切れるほど柔らかい。肉質は牛っぽいが味は鶏に近い。『ブルホーン』という牛に似た魔獣の肉だと言っていた。


この世界にも牛や豚、羊にニワトリは存在しているが前世ほど品種改良は進んでおらず、その代わりに魔物の肉や卵が食卓に並ぶ。


ちなみに、ファンタジー界隈で有名なコカトリスの卵は、珍味として重宝されるがそのまま食べると石化毒が蓄積して内臓が石化してしまう。適切な処理をしないと食べることが出来ないのだが、処理をする為には高価な魔道具や錬金薬が必要なのと販売許可証が必要なのだ。


つまり、非常にお高いってこと。


ファンタジー好きとしては一度は食べてみたいんだよなぁ。うん、貯金頑張ろう。


この辺りにあるのは冒険者向けの露店なので、武器や防具なんかも置いてある。こう見えて?子供なので流石に見るだけなのだが、刃物って見てるだけで何だかワクワクしてしまうのは何故だろう。


ドラゴンが剣に纏わりついてる奴とか、すごくロマンを感じるよね!


魔道具や錬金薬の店もちゃんとチェックしておく。魔導具の店には、旅が便利になるアイテムが揃えてあるな。定番のマジックバッグは置いてなさそうだが、やはり高価なのだろうか?


他には、森の中で迷わない為の道具や携帯砥石、簡単火起こしキットなど、ちょっとしたキャンプ用品店みたいな品揃えだった。一瞬、魔導具の定義とは?と思ったが、ちゃんと魔法付与がされているようだ。


「お嬢ちゃん何かお探しかい?」

「あのね、お母ちゃんと弟にお土産買おうと思って」

「おや、偉いねぇ〜。王都へは遊びに来たのかい?」

「うん、村の学校に入ったお祝いでお父ちゃんが連れてきてくれたの!」

「あら、良かったねぇ〜。ゆっくり見ていきなね」

「うん、ありがと!」


今の俺は王都へ遊びに来た村娘。父は冒険者で、入学祝いに王都へ連れてきてもらった…という設定。馬車に乗ったりお店を覗いていると結構聞かれるんだよね。だから、設定を決めておいた。ちなみに、名前も決めてあるぞ。


市場調査が目的なのだが、美味しそうなお菓子やお茶なんかも購入する。貴族のお上品なお菓子も美味しいけど、ジャンクな奴も食べたくなるんだよね。


一通り見て回ったので、馬車の待合所へ向かう。次の馬車は…まだ暫く来ないようだから、もう少しこの辺を回ってみるか。


買ったばかりのお菓子を一つ口に放り込むと、人で賑わっている通りを少し外れた道を歩く。この辺は住宅街なのかな?家の前の花壇に水をやる人や小さな子達が走ってたりする。


そのまま進むと、徐々に周囲が薄暗くなってくる。空気も淀んでいる気がするなぁ。コレ以上進むのは危険だと思ったので踵を返して戻ろうとしたその時だった。


『たすけて』


微かだが、そんな声が聞こえてきた。足を止めて振り返るが、周囲はシンとしたままだ。聞き間違いだろうか?


『おねがい…たすけて…』


今度はハッキリと耳に届いた。その声はどうやらこの先から聴こえるようだ。実際には念話のようなモノだと思うが、俺の勘がコッチだと告げていた。


周囲の様子を窺ってから眼鏡の出力を最大まで上げる。これで俺の姿は誰にも見られなくなったはずだ。荷物を収納魔法で異空間に仕舞い代わりにマントを取り出す。『飛翔のマント』という魔導具で、身体を羽根のように軽くし高く飛び上がる事で飛ぶように移動できるものだ。


身体に魔力を纏わせて屋根の上に飛び上がると、声のした方へと急いだ。


到着したのは住民街の一画。アチコチ破れた布や半分朽ちた木の板で作られた小屋が建ち並び、酔っ払って道端で寝る者やガラの悪い奴らがあちこちにいる。恐らくスラム街ってやつだな。


そんなスラム街の中に2階建ての古びた建物があった。声の主はこの建物に居るようだ。


一階はどうやら酒場になっているらしく、入口は開放され酒瓶が転がっている。そっと中に入ると、数人の男達が酒を飲んでいた。こちらに気付く様子はないので、そのまま奥へ進む。


カウンターの奥に地下への階段を見つけ、下へ降りると沢山の檻に入れられた動物達の姿があった。どの動物もこの国では希少と言われているものだ。中には取引が禁止されている動物の姿もある。


こいつぁ、怪しい臭いしかしないぜ!


そういえば、声の主はどこだろうか?そう思って更に奥へ進むと…


『だれ?』


そんな声が聴こえた。一番奥にある檻に掛けられた布を捲ると、その中には魔力の縄で縛られた人形があった。…いや、これはもしかして精霊なのか?


檻をよく見ると呪符のようなものがたくさん貼られている。これアカンやつや!


どうしようかと思ったが、すべて教皇の所へ持って行く事にしたのだった。

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