第21話 日曜日のお楽しみ

「んがっ」


頭がガクンとなって、眠りから覚めた。本を開いたままうっかり寝落ちていたらしい。


手元を見ると眼鏡があった。寝ぼけて外したんだろうな。いやー、ウッカリだったぜ。


窓から外を見ると、眠る前に見掛けた生徒達の姿があったからそこまで長時間眠っていた訳では無さそうで安心した。この本は持ち出し禁止なのでまたの機会に読むことにしよう。


本の題名は『ジパング皇国の歴史と文化』。そう、異世界人が興した国についての本だ。いやー、名前を見た時は三度見くらいしちゃったよね。まさか馴染みの有りすぎる名前が出てくるとは思わないじゃん?


本を片付けようとして、ふと見覚えのないモノがあることに気が付いた。


「あれ、こんな栞あったっけ…?」


そこには、薄い金属製の栞があったのだ。透し彫りがされていて淡い紫の革紐が結んである。革紐の先には濃い紫の石で出来たビーズが付いていた。


自分が寝落ちする前には無かったから、もしかして誰かが来たのだろうか?だとしたら、眼鏡を外してしまっていたのは失敗だったかもしれない。


しかし、この奥は上級生でも読まないような本ばかりだしこの場所にある本目当ての生徒なら、友達になるのも楽しいかもしれないな。もしかしたら、自分のように目立たず大人しく過ごしたい仲間なのかも。


間違っても王子様のようなキラキラした人間ては無いだろうし、この場所にいればもしかしたら栞の主が現れるかもしれない。


目立たない事を徹底しすぎて友達が居ないのは、やっぱり少し淋しいんだよな。できれば同好の士を探したいものだ。


「さて…行くかぁ」


栞を胸ポケットへしまい、図書館を後にしたのだった。




日曜日。俺は街の中を散策している。


目的は錬金薬と魔導具。それから異国の食材だ。王都はとても広く1日では見て回れないので東西南北のエリア毎に見て回ることにした。


王都は丸い形をしていて王宮の周りから外に向かって四つの壁がありそれぞれ名前がつけられている。一番内側は王宮の周りにある『王壁』。ここは王都が攻め込まれた時の最終防衛ラインで、あらゆる技術を駆使した最強の防壁だ。


『王壁』から『第一守護壁』の間は貴族の居住区になっている。そして第一守護壁から『第二守護壁』までの間は、王立学院の他に騎士団の本部と騎士学校。商業ギルドと貴族向け商店街と平民の中でも裕福な者たちが住まう区画だ。


第二守護壁の外側は平民達の住む居住区や職人街がある。冒険者ギルドや平民や冒険者向けの店もこの辺りだ。


そして、第三守護壁。ここは王都の一番外側にあり、敵が王都へ攻め込んだ時の最前線となる。その為、壁は他の守護壁よりも分厚く、壁の中に騎士団の詰所があったり武器庫や設備の維持管理施設があったりと、防衛の最前線ということもあり少し物々しい雰囲気だ。また、王都の外から来た人達の検問も行われているので地下には牢があるらしい。


さて、俺が今向かっているのはそんな第三守護壁近くの冒険者向け露店街だ。ちなみに、王立学院のある場所からここまでは定期運行の馬車が出ているのでそれを利用して移動している。


「おぉ…ここが露店街…」


馬車に揺られること1時間。目的地に到着した。


王立学院の周辺は高級区画だからかすごく静かなのだが、ここは煩いくらい賑やかだ。


まずは目についた露店から見て回る。前世でも馴染みのある食材やファンタジー世界らしくみたこともない野菜や魔獣の肉なんかも売られていた。


道を歩く人達も様々な種族が入り混じっている。ウォルティス王国はヒト族の国なので学院ではヒト族以外見掛けないのだが、この辺りは他国の冒険者もやってくるので初めて目にする獣人達を見ているだけで楽しかった。

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