第19話 君子危うきに近寄らず

いよいよ学院での授業が始まった。

内容は座学と実技に分かれていて、座学は歴史・政治・文化・教養・言語・数学・魔導の7項目ある。午前中は三時間、午後は二時間の五時間授業に加え、選択授業と課外活動がある。


選択授業は、社交・芸術・護衛・錬金・魔道具・剣術・乗馬・経営の中から最低一つ。課外活動はサークルのようなもので、所属しなくても成績には反映されない。


貴族子女は社交を選ぶ人が多いらしいが、俺は乗馬に決めている。錬金や魔道具にしていないのは目立つのを避けるためだ。徹底しているでしょ?ちなみに、乗馬にしたのは単純に前世では経験できなかったから。いやー、カッコいいじゃん?乗馬って。


幸いなことに、貴族女性でも乗馬を嗜んだりするので俺が乗馬を選んでも何の問題もないのだ。


それに、錬金関係のものや魔道具は休みの日に道具屋を覗けばだいたい把握出来そうだからね。


初等科の授業は、今まで学んだ事の復習から始まる。そこからより詳しい内容になっていくのだが、どうやらクラスによって授業内容は変わるらしい。当然、『ルーノ』は中〜高程度のクラスになる。


前世では出来損ないの俺だったが、今世ではビックリするくらい頭が回る。一度聞けばすぐに記憶して深く理解が出来るし、苦手だった数学も計算式と答えが瞬時に頭に浮かぶ。


もちろん、最初は物凄く戸惑った。何せ、自分なのに自分じゃないような気がしたから。ゲーム内での知識しか無かったのに魔道具や錬金術についてもゲームになかった使い方やレシピを思いつくようになっていたので、これもチートの一つなんだろう。


この世界の暦は前世とほぼ同じで、曜日の呼び方も同じなのでわかりやすい。時間も24時間で前世と同じだ。どうやら大昔にも異世界人が居たらしく、その人が暦や時間を制定したようだ。その人は遠く離れた異国の王になったらしいので、その国なら日本食もあるんじゃないかと期待している。


さて、入学から一ヶ月が経った。最初の一週間は授業を受ける間は髪色を元のままにしていたが、試しに髪色を変えても意外とイケたのでそれ以降は明るい茶髪に眼鏡の完全にモブ女子生徒と化している。


学年が違うので学舎で王子や兄達に会うことは殆どないが、食堂だけは避けようが無い。とはいえ、彼等はいつも人に囲まれているのでなるべく離れた場所で食事をしている。


兄達は俺と昼食を取る気みたいだが、もれなく王子がついてくるんだよなぁ…。君子危うきに近寄らず。兄達には申し訳ないが、逃げさせてもらうぜ。


「あら、その髪飾りはどうなさったの?」

「父が隣国から取り寄せてくださいましたの」

「ねぇ、この後一緒にお茶しません?」

「いいわね!最近お気に入りのパティスリーがあるの」

「俺はグローディが有力だと思うなぁ」

「そうか?ハスガンの突き技は強力だぞ」

「それなら、ボウヤーはどうだ?」

「たしかに、あの盾術は見事だからな」


授業の合間の他愛ないおしゃべりをBGMに外を眺める。いやー、会話についていける自信がまっっっったく無いんだよな。こうして、彼らの話を何となく聞いてるほうが落ち着く。そういや、前世もこんな感じだったなぁ…あの時は選択ボッチじゃなくて、クラス全員からハブられてたんだけど。


思い出したら何だか虚しくなってしまったので、昼食後に学院図書館へ足を運んでみた。歴史ある図書館で、禁書と呼ばれる本も収蔵されているらしい。ちょっと気になるな、禁書。


高い天井に、沢山の本。古いインクと紙の香りと静かで少しヒンヤリとした空気が心地よい。歩くとゴツゴツとした靴音がするのも気に入っている。


入学して校内説明で訪れてから、図書館はお気に入りの場所になった。何せ人が少ないからね。そんな図書館で一番気に入っている場所がある。二階の一番奥にひっそりとある出窓だ。窓から中庭がよく見えるのだが、 向こうからは気付かれないし、クッションとひざ掛けを持ち込んで出窓に座り込むといい感じに収まるのだ。


この狭さが最高に落ち着くんだよな~


目当ての本を開いて読み始めるが、日差しがポカポカと心地よくて、ついウトウトしてしまう。


眠い目をこすりながら本を読んでいたが、いつの間にかすっかり眠ってしまったのだった。

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