第17話 ドキドキ・ワクワク・入学式
ザワザワ…ザワザワ…
「アーシェちゃん、目立ちたくないからと言ってクラスまで落とさないようにね?」
「…ハイ、ワカリマシタ」
母上、目が…目が笑ってません。
俺は今、入学式に出席すべく両親と共に学院の講堂へ向かっている。正門からは王族であっても歩いて移動するのが決まりなので両親と並んで歩いているのだが…
『みて!王宮魔導士の制服よ』
『あれがフォーサイスの妖精姫か…』
『王国一の美姫と謳われたフォーサイス子爵夫人…なんと美しい…』
『御子息達も大変優秀だとか…』
あああああ!!!すっごく目立つぅぅぅぅぅ!!!
両親が物凄く目立つせいで、俺も目立っているぅぅぅぅ!!!今すぐ隠れたい…が、それを察した母からガッチリ釘を刺されているのだ。
学院の制服は濃いグレーの襟付きワンピースで首元には学年毎に色の変わるリボンかタイを付ける。その上から同色のボレロと、更に上からローブを羽織る。ローブは前が短く後ろが長くなっていて、ちょうどお尻が隠れる長さだ。ローブの色は紺色。ちなみに男子生徒は紺色のブレザーにグレーのスラックスだ。
ちなみに、アレンジは自由なので貴族子女は色々と手を加えている。
俺の制服は腰にリボンがあしらわれて、スカート部分はフワッとしている。ワンピースとローブには銀糸で細かな刺繍がしてあって、紫の宝石が縫い付けられているので光に当たるとキラキラと輝く。
自分で言うのもアレだが、これを着た俺の可愛さは半端ない。そりゃ衆目を集めちゃうよね。
人々の注目を集めながらの移動はかなり堪えたぞ。
入学式は学院長の話やら王宮の偉い人の話やらが続き、目を開けたまま眠る技を開発しておけば良かったなと心の底から思った。
「では、生徒諸君は各クラスへ移動して下さい」
「アーシェ…やっぱり自宅から通わないかい?」
「もう、今更変更なんて出来ませんよ」
「あぁ…心配だわ。くれぐれも気を付けてね?」
「お母様まで…大丈夫ですから。もう行かないと!」
俺は学院の寮に入るので両親とはここでお別れだ。寮生はすべて自分の力で生活をしなければならないので、通える範囲に自宅のある生徒が寮生活をするのは珍しいと言える。
俺は前世で一人暮らしだったからな。大抵の事は一人で出来るし、チート能力で大抵の事は何とでもなるはずだ。
久し振りの一人暮らしにウキウキしながら教室へ向かっていると、何やら周りがザワザワとしているのに気付いた。
『ねぇ!あの方って…』
『あのウワサの…』
『初めて見る方ね、どちらの家なのかしら?』
『ほら、あのフォーサイスの…』
『あぁ、滅多に外へ出てこないって…』
『妖精姫…なんて言われてるらしいわよ?』
『やだぁ、幽霊姫の間違いじゃない?』
おっとぉ、早速洗礼だぁ!
想像通りの展開にゾクゾクしちゃう。この陰湿な陰口が生で聞けるなんて…いやぁ、楽しいなぁ!
「ぶっふぉ」
うん?真後ろから何か聞こえたぞ…
振り返ると、そこにはやたらキラキラした男子生徒が肩を震わせていた。学年を表すタイの色は赤。どうやら2つほど上の先輩らしかった。後ろにも同じ色のタイをした生徒がいるのが見えた。通行の邪魔だったかな?
「通行の邪魔をしてしまったみたいですね、気付かずに申し訳ありません」
端に寄り礼をして道を空ける。が、何故か立ち去る気配がない。見上げると、キラキラ男子と目が合った。
「いや、足を止めてすまないね。もしかして、君はフォーサイスのご令嬢だろうか?」
「あ、はい。アシェラッド・セラティア・フォーサイスと申します。殿下」
「なるほど…君のご家族が隠したがるわけだ。流石の洞察力だな」
俺が『殿下』と呼んだことに驚いたようだが、ちょっと観察すればすぐに分かると思うんだよな。胸のとこに飾られた紋章は王族を表すものだ。名札を付けてるのに『俺の名前は何でしょう?』と聞いてるようなものだぞ。
「いえ、胸の紋章が見えておりましたので…」
「……あっ」
気付いてなかったんかーーーい!
真っ赤になってアタフタしている王子を見て、周りの女子生徒が黄色い悲鳴を上げている。後ろの男子達よ、笑いをこらえるのはやめて差し上げなさい。
「あー、コホン。私達もそちらの教室へ向かうところなんだが、良ければ一緒にどうだい?」
「いえ、急ぎますので申し訳ないのですがご遠慮申し上げます」
「えっ」
「そろそろ教室で着席していませんと…それでは、失礼いたしますね。ごきげんよう〜」
王子はまだモダモダと何やら言っていたが、後ろの黒髪男子にアイコンタクトをすると頷いてくれたので失礼にはならないと判断し、そそくさとその場を離れて教室へ向かった。俺が離れた途端、女子生徒が群がったので追ってはこれないだろう。
いい感じに人の気配が無くなったので眼鏡をかける。これで「居るんだけど印象に残らない」人物の完成だ。あとは静かに学生生活を満喫するだけだ!
こうして、俺はモブ学生生活の第一歩を踏み出したのだった。
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