第15話 俺はわるくないもん

「で、一体何があったんだい?」

「えぇと…」


実技試験が終わったあと、冒険者達の様子に驚いた担当官が兄に連絡をしたらしい。なので、俺は冒険者達が話していた内容や使ってきた道具に魔法の事をしっかり説明しておいた。…俺がやったことは誤魔化してあるよ?


「…と、いうわけです」

「なるほど、冒険者協会には厳重に抗議をしておかないといけないね」

「ええ、そうですね」

「あの、彼らの怪我はどうして…?」

「さぁ…私にはわかりませんが、もしかしたら教会で頂いたお守りアミュレットのせいかもしれません」

「お守り…ですか?」

「えぇ。私には『錬金』の技能があるのですが、縁あって教会の方にご指導頂いているのです。その際に司祭様から頂いたのですけれど、教皇様手ずからの品で守護魔法が込められている…と聞いております」

「なんと、そのような品をお持ちだったのですね」

「えぇ。悪意を持った者からの攻撃を防いでくれると聞いていたので試験では着けたままでも大丈夫だろうと思っていたのですが…」


嘘は言っていない。俺の手首には教皇から貰ったお守りが付けられているからね。コレがあるから教皇の部屋まで行けるのだが、すべての反撃はこの「教皇印のお守り」効果なのだとアピールしておく。


決して俺のせいではないのだ。


「アーシェ…怖かったろうに」

「いいえ、大丈夫ですわ。お兄様」


妹を溺愛している兄は、なんの疑いもなく俺の話を信じているようだ。そんなんで大丈夫か?


「なるほど、よくわかりました。アシェラッド譲、お手を煩わせて申し訳ありませんでした」

「アーシェ、兄様はまだ仕事があって送れないんだ。くれぐれも気をつけるんだよ?」

「えぇ、わかりました。それでは失礼いたします」


礼をして部屋から出ると、廊下の向こうから誰かが歩いてくるのが見えた。学院の関係者かな?長い黒髪をそのまま垂らし、白と青のローブを着た不思議な雰囲気の男性だ。じっと見ていると、目が合ってしまったので慌てて頭を下げて横を通り抜けて護衛の待つ部屋まで急いだ。


「ふふっ、なるほど」


ローブの男性は、足早に去っていくアシェラッドの背中を見つめる。


「面白い事になりそうだ」


そう呟いた顔は、とても愉快そうだった。




「アシェラッド様!!」

「ただいまぁ〜」


護衛の待つ部屋へ入ると、ローガンとトリティが駆け寄ってきた。二人共騒ぎを聞いていたのかな?


「お怪我はありませんか?」

「大丈夫よ。トリティと毎日走り込みしていたから誰にも捕まらなかったわ!」

「流石です、お嬢様」

「他所の護衛達から聞きましたが、狼藉者が居たとか…」

「あぁ、皆返り討ちにしたから大丈夫よ」

「えっ…」

「それよりもお腹空いちゃった!はやく帰ってお茶にしましょ」

「あっ、はい」


護衛達と外へ出る。すると、突然声をかけられた。


「おい、おまえ!」


声がした方を向くと、男子集団が立っていた。何処となく気まずそうな雰囲気だ。俺を守るように立つ護衛を制止して、彼らの前へ立つ。すると―


「その…さっきは悪かったな」

「俺達、貴族は遊んでるだけだと思ってた」

「でも、試験が終わったあとに四ツ華の冒険者に言われたんだ…」


彼らの拙い話を総合すると、四ツ華よつぼしの冒険者からミッチリ説教されたようだ。冒険者達のまとめ役でもあったらしい彼等は平民の間でも有名人でこの子達も憧れているようだ。


冒険者か…


「あの…」

「謝罪は受け入れるわ。勉強、頑張ってね」


それだけ言って、乗車場へ向かう。ちゃんと反省出来る子達ならきっと大丈夫だろう。


それにしても…


「やりすぎたよね…絶対…」


ムキになってやり過ぎた気がするんだよなぁ。

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