第13話 面接と鬼ごっこ

「いやー、お目にかかれて光栄です」

「アシェラッド譲が入学なさると聞いて、我らも心待ちにしておったのですよ」

「噂に違わぬ才覚をお持ちのようだ」

「…はぁ」


何だろう?物凄く持ち上げられてるのだが、違和感が拭えない。この人達は何がしたいのだろうか。


「ところで、アシェラッド譲は学院で何か学びたいことはあるのですか?」

「学びたいことですか?」

「えぇ、学院には『選択授業』という科目がありまして、いくつかある科目から生徒が学びたい分野を選ぶ事となっておるのですよ」

「なるほど、そうなのですね」

「何か興味のある分野はおありかな?」


ふーむ、選択授業か。やるなら、錬金かな?魔導に関しては学ばなくても良いし…


「『錬金』の技能がありますので、錬金を学びたいと思っております。他の科目は講師をお招きして学んできましたが錬金に関してはとある方にご協力は頂きましたが、ほぼ独学でしたから」

「ほぅ、魔導ではないのですか?」

「そうですね、いずれ興味が持てれば…とは思っておりますが」


なるほど、こうしてお茶会で雑談しているように見せかけた面談が行われるのか。これはウッカリ発言に気をつけないといけないな。


「そういえば、錬金に関して協力されているのはどなたなのですか?」

「教皇様です」

「…へ?」

「え?あっ、教会様です。えーと、教会の神官様が錬金スキルをお持ちらしくて、礼拝の時にお話させて頂いてるんです。おほほ」


あっぶね、ウッカリ口に出してたぜ。


その後は普段の生活やら、どの程度まで歴史や魔導を理解しているかの雑談があって面談は終了した。


控室にいた護衛と合流して昼食をとってから、動きやすい服へと着換えて訓練場へ向かう。そういや、さっきの男子集団も一緒なんだよな?また絡んでくるんだろうか…


「ではこれより、実技試験を始める」


訓練場に教官役と思われる数人の冒険者が入ってきた。


「なぁ、あれ四ツ華よつぼしランクの冒険者だぞ…」

「あれは、『閃風の刃』だ!」

「すげー、初めてみた!」


周りがなにやらソワソワしている。もしかして有名人なのかな?


「さて、これから剣術の試験を行う。ルールは簡単だ、これから付けてもらうこの球を割られないよう守ること。顔および急所への攻撃は禁止。反撃はアリだが自分から攻撃を仕掛けようとは思うなよ?それから、受験生同士でやり合うのも禁止だ。わかったな?」

「つまり、冒険者の皆さんから球を割られないように守れば良いんですね?」

「おぅ、そういうこった」


なるほど、要するに鬼ごっこなんだな。ちょっとだけ逃げて適当な所で割ってもらえば良いか。


「それでは…はじめ!!」


スタートの合図で子ども達が一斉に散らばる。冒険者の様子をうかがうと、まだその場から動く様子はなかった。ある程度散らばったら一斉に出るつもりなんだろうけど…なーんか、ニヤニヤしてるのが気に食わないんだよなぁ。


なにやらボソボソと話しているので、建物の影に身を潜めつつ会話を盗み聞きする。俺が創った『聞き耳』という魔法だ。


『いやー、楽勝だな』

『ガキを捕まえるだけでペナルティが無くなるんだからな、ギルドも甘いぜ』

『そういや、貴族のお嬢ちゃんもいたな』

『なんか、やたらキレイな子が居たわねぇ』

『なぁ、ちょっとばかし脅かしてやろうぜ』

『おっ、いいねぇ。退屈してたから丁度いいや』

『お偉いさんに楯突いたらオオメダマじゃ済まねぇが、試験なら…な』

『へへっ、お前も悪いこと考えるなぁ』


おっと、どうやら何かの違反をして奉仕活動させられてるんだな?狙いは…俺っぽい。なら、ちゃんと相手しないとだね。反撃は許可されてるし。さて、どうするか…


「きゃぁっ」


どこからか悲鳴が聞こえてきた。冒険者達はまだ動いていないが…


声のした方へ向かうと、平民男子集団がリュリーナちゃんを追いかけていた。あいつ等なにしてんだ?!


「おらおら、さっさと球割らせろ!」

「そーだそーだ!貴族なんてどっかいけよ!」

「やめなさい!生徒同士の攻撃は禁止だと言われたのを忘れたのですか?!」

「けっ、そんなん知るかよ!」


おっと、男子達よそれはルール違反だぜ?


リュリーナちゃんは必死に走っているが、クソガキ達は流石の体力だ。このままだと危ないから、ちょっと手助けをする。冒険者たちも動き出したし、ここでリュリーナちゃんが狙われるのは可哀相だ。


「『濃霧ミスト』それから『幻影ファントム』」


まずは、彼らの周りに霧を発生させる。そして対象をリュリーナちゃんにして、幻影魔法で姿を隠した。


「リュリーナ様、こっちへ!」

「…っ!アシェラッド…さま…」


リュリーナちゃんを回収して物陰へ隠れる。


「大丈夫?」

「は、はい…なんとか…」

「さて、リュリーナ様はここで大人しくしていてくれる?」

「えっ、わかりました…。アシェラッド様は?」


リュリーナちゃんが不安そうに見つめる。


「ちょっと、お仕置きを…ね」


そう言ってウィンクしてから、その場から駆け出す。


「さーて、楽しい鬼ごっこやりますか!」

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