第12話 入学試験は波乱の幕開け

「入学試験を受ける者はコチラで受付けをしてくださーい」


係員の声が響く。


今日は王立学院の入学試験の日。会場には沢山の子供が親に連れられて集まっていた。


入学試験は子供であれば誰でも受けられるので、貴族だけでなく平民もこの会場に集まっている。大きな混乱を避けるため、高位貴族は別会場なのだが、我が家は子爵なので平民と同じ会場で受ける事になる。


「こちらでお名前を伺います」

「アシェラッド・セラティア・フォーサイスです」

「フォーサイス様ですね…はい、ではこちらの番号札を持ってご自分の札の番号が書かれた教室にお入り下さい」

「アシェラッド様、私達はこちらで控えさせて頂きます」

「うん。いってきます」

「いってらっしゃいませ」

「ご武運を」

「ローガン…別に戦いに行くわけじゃないんだけど」


護衛に見送られて教室に向かうと、そこには数十人の子ども達が緊張した顔で座っていた。服装を見ると、どうやら平民も混ざっているようだ。自分の札と同じ番号の席に座ると、隣の子から声をかけられた。


「こんにちは、貴族家の方と存じますがお名前を伺ってもよろしいかしら?私はデーゲン男爵家の三女リュリーナ・トワル・デーゲンですわ」

「アシェラッド・セラティア・フォーサイスと申します。これから学友になるのだし、気軽にアシェラッドと呼んでくれると嬉しいわ」

「かしこまりました、アシェラッド様。私のことはリュリーナとお呼びください」

「えぇ、リュリーナ様。よろしくね」


リュリーナちゃんはクルンとした赤毛と緑の瞳のおっとり系女子だった。お友達になれるかなー?


入学試験は、簡単な筆記試験と面接。それから魔法と剣術の実技試験が行われるのだが、実は出来なくても問題はない。何故なら、個々のレベルと面談での鑑定の結果から適切な学校に割り振る為の試験だからだ。


貴族は王立学院と決まっているのだが、成績別にクラス分けがされるのでこうして試験を受けに来ている…というワケ。なので、俺も余裕でいられたのだ。


しかし、若干余裕ムードな貴族に対して平民はピリピリしている。と、いうのも王立学院の門戸は平民にも開かれている。が、幼い頃から教育を受けたわけではない彼らにとっては狭き門なのだ。


「けっ、お貴族サマは気楽でいいモンだなぁ」


不意にそんな声が聞こえてきた。


振り返ると、数人の男の子達がこちらを睨むように見つめていた。


まぁ、そうだよなぁ。王立学院に入れれば将来安泰だって言われているらしいし。でも、実際はそんな生易しいものではないんだけど…子どもの彼等にはまだ想像もできないんだろうな。


まぁ…スルーするけどね!


「そういえば、実技試験はどういった事をするのでしょうね?」

「昨年ですと、冒険者協会から講師がいらっしゃって手合わせのような事をしたと聞いておりますね」

「へぇ〜、今年もそうなのかな?」

「そうですわね、例年通りなら…」

「貴族の女に手合わせなんて無理だろ〜」

「ははっ、違いねぇ」

「贅沢な暮らしして、なんの苦労もないくせに…」

「ほんとだよなー」


早く試験はじまらないかなー。


「おい、無視してんじゃ…!」

「お待たせしました、試験を開始します」


男の子の集団がこっちに食って掛かろうとしたその時、担当教官が室内へ入ってきた。慌てて席に着く男の子達だが、コチラを睨むことはやめなかった。


筆記試験は出来た者から席を立って良いという話だったので、サクッと終わらせて部屋から出る。担当者も教室内の子ども達も妙な顔をしていたけど…席を立ったら駄目だったか?まぁ、いいか。


さて、次は面談なのだが…


「えぇと…」

「ふふっ、驚いたかい?」

「もぅ!わざと黙っていたんですか?」

「ごめんね?規則だから話せなかったんだよ」


そこには長兄の姿があった。どうやら面接担当官の一人として参加しているようだ。ちなみに、長兄は昨年学院を卒業して今は王宮で働いている。


「それじゃ、面談頑張ってね」

「はぁい、お兄様もお仕事頑張って下さいね」


貴族の面談とはいえ身内の担当は出来ないので、名残惜しそうに兄は別室に入っていった。


「アシェラッド・セラティア・フォーサイス嬢、どうぞお入り下さい」

「はい」


面談が行われる部屋へ案内されると、そこには壮年の男性が3名座っていた。あー、企業の就職面接を思い出すなぁ…


「アシェラッド・セラティア・フォーサイスです。本日はよろしくお願い致します」

「ようこそ、アシェラッド嬢。貴女がいらっしゃるのをお待ちしておりましたよ」

「…?ありがとう存じます」


面接官が物凄くニコニコしている。席につくと何故かお茶とお菓子が運ばれてきた。


あれ、面談ってこんな感じなの?

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