第9話 洗礼の儀

どこの世界も偉い人の話は長いらしい。


豪華な衣装のお爺さんは『枢機卿』で、創世の神話を語ったかと思うと教会の偉業やら何やらを延々と語りだした。いい加減退屈してしまったので、周りの様子をちらりと伺うとやはり子ども達は退屈そうにしていた。中には居眠りしている子もいるな。うん、気持ちはわかるぞぉ。


ウンザリした空気が礼拝堂に漂いだした頃、ようやく枢機卿の話は終わった。


ここからは、順番に別室へ呼ばれ『洗礼名』と『技能スキル』を授かる事となる。


「フォーサイス家、アシェラッド嬢」


名前が呼ばれ、別室へ向かう。


呼ばれた部屋へ入ると、教会に入る前に出会った司祭様ともう一人優しそうな雰囲気のお爺さんが座っていた。座っている人物を見た父がギョッとしているが知り合いなんだろうか?


「まさか、貴方様がおいでとは…」

「ふふっ、驚きましたか?」

「おとうさま、こちらのかたは?」

「あぁ、この方は…」

「ご機嫌よう、アシェラッド嬢。私はコンラッドと申します。本日は私が洗礼の儀式を行わせて頂きます」

「コンラッドさま、ごきげんよう。よろしくおねがいします」


なにやら誤魔化されている気もするが、促されて椅子に座る。机の上には小さな穴の空いた半透明の玉と古そうな本と図形の書かれた紙が置かれている。


「ではアシェラッド嬢、この魔道具に指を入れてくれるかな?ちょっとチクッとするけど、すぐに治るからの」

「はいっ」


この半透明の玉は魔道具なのか。穴に指をそっと入れると指先がチクッとした。痛みはすぐに引いたが、どうやら血で何かを判別する魔道具のようだ。


『導きの神よ、ウォルテートの新たな子に輝かしい未来の導を授け給え』


コンラッドさんがなにやら唱えると、玉が虹色に光り輝いた。


「おぉ……」

「うっ…こ、これは…」


大人達が驚いているが、俺も驚いている。


何かすんごい光って眩しいんたけど、なにこれぇ?!


やがて光が収まると、虹色の光が微かに残る玉に文字が浮かび上がった。


「洗礼の女神から名を授かった。洗礼名は『セラティア』属性は…虹じゃ」

「なっ?!」

「虹?!」

「ほえっ?!」


えぇ〜、属性ってなんなのぉ?スキルについては対策してたけどこっちは想定外だったよぉぉ!


「あー、次に技能じゃ。コチラの魔法陣の上に手を乗せてくれるかの?」

「はっ、はい…」


脳裏にニヤリと笑う女神の顔が浮かぶ。


頼むから余計なことはしてくれるなよ?


魔法陣がフワリと光ると、空中にいくつかの文字が浮かび上がった。


「ほぅ、『魔導』『錬金』『治癒』『剣術』…うん??」


スキルについては俺が弄った通りに表示されている…が、コンラッド様が首をひねっている。ひょっとして偽装工作がバレたのかな?


「ほぅほぅ、なるほど。いや素晴らしい技能を頂いたようですね」


コンラッド様がニッコリとそう告げたのでホッとする。


「神の子セラティア。己の力に溺れることなかれ、常に研鑽し神の御下へ召されるまでその力を正しく行使せよ」

「かみのこセラティアは、ただしきこころでてんよのちからをふるうとちかいます」


最後に洗礼名で誓いを述べれば儀式は終了だ。この後は与えられた技能の説明などが大聖堂で行われるのだが、何故か俺だけ別室に残されていた。父も同席すると言っていたが王宮から使いが来てしまったので、しぶしぶ俺と別れて教会から出ていった。


「さて、セラティア嬢。まずは無事に洗礼の儀を終えたことお祝い申し上げる」

「えっと、ありがとうございます」

「そう固くならんでも良い、属性と技能についての話をするだけじゃ」

「はぁ…」

「セラティア嬢…いや、セラティア様とお呼びするべきですな。全ては女神様より神託で賜っておりますよ」

「えっ?!」


居住まいを正して明かされた事実に驚いた。スキルを読み上げる時に不思議そうな顔をしていたのは、俺がどういう者なのか知っていたからなのか。


「あの、ぞくせいというのは…?」

「おぉ、あれは得意属性を調べるものでしてセラティア様の『虹』はすべての属性を扱えるという意味なのです。この国に全属性を扱えるのはほんの一握りですから…」

「ちゅうもくされちゃう?」

「まぁ、そうでしょうな。ただ、技能はうまく隠されておりますし何とかなるでしょう」

「よかったぁ」

「まぁ、何かお困りの時はこのコンラッドをお尋ねくだされ。こう見えても教皇という立場におりますので国王にも多少の口はきけますぞ?」

「ふぇっ、しゅごくえらいひとだった…」


暫くすると用事を終えた父が迎えに来た。俺が教皇様への自由面会権を頂いたと聞いて驚いていたが「虹属性の子は貴重じゃからな」という一言で納得させられていた。


こうして、洗礼の儀は無事に?終了したのだった。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る