第8話 そうだ、教会に行こう
俺が転生してから5年が経った。
この数年何をしていたかと言うと、普通の幼児と同じように寝て起きて遊んで…の繰り返し。3歳になると『先生』と呼ばれるご婦人がやってきて様々な物語を俺に聞かせてくれるようになった。
その頃には言葉も達者になっていたので、俺は先生や侍女達と色んな話をしてこの世界の知識を蓄えていった。前世の知識のせいか、時折彼女達を驚かせることもあったが、家族が皆優秀だからかそれほど不審に思われ無かったのは幸いだった。
そして、俺は少しずつ魔法の練習も行っていた。もちろん誰にも内緒だ。幸か不幸か、俺のファンタジー知識が役に立ったのは言うまでもない。
俺だけの特性かは知らないが、ゲーム内での魔法
そして今日、俺は『洗礼の儀』と呼ばれる行事に参加するため王都の教会に来ていた。俺が住むウォルティス王国では、5歳の子供は教会で女神から洗礼名と呼ばれるミドルネームと技能を授かる儀式を受けるのが古くからの習わしなのだ。
先生が来るようになってから知ったのだが、我が家があるのは王都から北に馬車で3日ほどかかる小さな領地。その先は祖父であるグローディア守護伯の領地になる。
父は王宮で魔導士団長として勤務しているのだが、国の中でも希少な転移術の使い手で領地と王都を転移で移動しているらしい。
ちなみに、祖父の『守護伯』というのは、国の最重要地を治める領主に与えられる特殊な爵位。王家に次ぐ権力を持っていて、曾祖母は王家の姫だったそうだ。
そんな血脈の我が家が何故『子爵』という微妙な立場なのかと言うと、これは父が若い頃に大規模な
爵位を持つ家の力関係は少し複雑なので俺も詳しくは聞いていないが、例えば公爵家の息子より爵位持ちの父の方が立場は上になる。王宮で勤める魔導士達は大半が貴族家の子息だから、年若かった父が年上の彼らを纏めるためにも爵位が必要だったのだろう。
前世で言えば、例え社長の息子でも一般社員として入社したら立場は主任より下になるって事だ。そこに親の権力が絡んでくるから実際にはかなり面倒な事にはなりそうだが。
それでも、男爵やその下の騎士爵・準男爵ではないところから王家からの期待の高さも窺える…はずなのだが、それを理解できない一部貴族もやはりいるらしくその辺のドロドロとした人間関係は侍女達の格好のネタにされている。
「アーシェ、教会についたよ」
父の言葉で思考の海から意識を戻すと、窓の外に荘厳な建物が見えるところだった。
「ふわぁぁ…」
真っ白な壁に細やかな装飾のされた教会は、王宮とは違った神聖さが漂っていた。教義にまつわるレリーフを飾るのはどの世界でも共通なんだろうか?しかし、ステンドグラスは無いらしく窓はすべて格子のガラスだ。
馬車を降りると、同じくらいの年代の子ども達が保護者と一緒にいるのが見えた。保護者達が一斉にコチラを見つめている。父の正装は魔導士団の礼服だからやはり目立つようだ。心なしか御婦人方の目がギラギラしているのは気の所為だと思いたい。
「おや、魔導士団長自らお越しとは…珍しいですね」
「フォリュース殿。息子達の時は遠征で妻に任せきりでしたからね、今回ばかりは私が付き添うと決めていたのですよ」
「ふふ、氷の魔導士様にもそのような面があったのですね」
「ごほんっ…アーシェ、この方はフォリュース司祭様だよ。今日の洗礼の儀を執り行なわれる方だ」
「フォリュースしさいさま、はじめまして。アシェラッド・フォーサイスともうします。ほんじつは、よろしくおねがいいたします」
「おや、これはご丁寧な挨拶を有難う存じます」
挨拶を交わしていると教会の人が礼拝堂へ入るようにと案内をし始めたので、フォリュース司祭はニッコリ笑って「またね」と言いながら礼拝堂へと入っていった。
礼拝堂の中も、外と同じように大きなレリーフが飾られていた。そして、正面の一番奥には女神像が飾られている。俺が出会った女神の姿よりかなり大人びた姿だ。なんで?
その両脇には、別の神像が置かれている。この世界には様々な神がいて、その頂点に立つのがフィリシュィオーネ様だ。
あの
そんな事を考えていると、女神像の真下に豪華な衣装を着たお爺さんが座っているのに気付いた。どうやら教会の偉い人らしく、他の神官達がうやうやしく何かを運んでいた。
「それでは、洗礼の儀を開始いたします」
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