第7話 お誕生日パーティー

兄達が帰ってきた翌日は、俺の1歳を祝うパーティーが行われた。


家族だけで行うのかと思ったら、何故か祖父母やその他大勢の大人達がやってきていた。中には俺と変わらないくらいの小さな子供も居たが、あれは『ご友人候補』ってやつなんだろうか?


まぁ、1歳児だから顔を合わせただけで後はそれぞれ好き勝手していたが…


それよりも、人が多すぎてかなり疲れた。赤ん坊をダシに両親と懇意にしようって魂胆が見える人達もいて辟易してしまった。


その魂胆、スケスケだぜ!


まぁ、そんな人達が来た時はグズって素早く切り上げてもらったけどね。ふふん、俺はデキる赤ん坊なのだ。


「おぉ、アシェラッドよ。疲れたであろう?ホレ、ジジの所へおいで」

「あぶー」


デレデレの顔で俺を抱き上げてるのは、祖父だ。祖父は身体も大きくて物凄く威厳のある人なんだが俺に対してはニッコニコである。初対面の時は厳しい人なのかと身構えたが、どうやら杞憂だったらしい。


祖母は父に似ているが、おっとりとした雰囲気だ。そして若い。お祖母ちゃんと呼ぶには若すぎる見た目なのだ。


「あー…父上はアシェラッドがお気に入りのようですね」

「念願の女の子ですもの。産まれたと連絡があった日なんて、泣いて喜んでたのよ?」

「そんなにですか…」

「それにしても、あの人を目の前にしても物怖じしないなんてアーシェちゃんは大物ね」

「泣く子も黙る"北の守護神"もアーシェの前では優しいお祖父ちゃん…ですね」

「うふふ」


『北の守護神』…なにそれカッコいい。


祖父にそんな二つ名が付いているだなんて…ひょっとして我が家は貴族の中でも割と上の方なんじゃないか?


祖父に抱っこされながらそんな事を考えていると、首筋にチリリとした痛みが走った。何故かわからないが、非常に不愉快な気配がして、思わず祖父にギュっとしがみついてしまった。


「ふむ…アシェラッドや、心配はいらぬぞ。ジジが付いているからの」


祖父はそう言うと、優しく背中をトントンとしてくれる。案外子どもの扱いが上手いのがちょっと笑えるな。そして、俺がしがみついた理由もどうやら察しているらしい。すごいぜ、じーちゃん!


「これはこれは…可愛らしいお孫様ですなぁ」

「…メスキーノか」

におかれましては、ご機嫌麗しゅう…」

「ふん、世辞はいらぬ。お主がわざわざ足を運ぶとは珍しい事もあるものだな」

「いえいえ、子爵家に姫君が産まれたと聞きましてね…いやはや、なんとも愛らしいですな」


なんだコイツ…すごい嫌な感じだ。でっぷりと肥った身体でニヤニヤとコチラを見る目は、俺のことを品定めでもしているかのようで気分が悪い。祖父の胸に隠れるように顔を埋めると、その男がおもむろに手を伸ばしてきた。


「やあぁぁぁーーーーーーーー!!!!」


オトコの手が触れそうになった瞬間、俺は全力で泣き叫んだ。産まれてからここまで泣いたことは無いってくらい叫んだ。


効果はバツグンだ!


父や兄達が一斉に俺を取り囲む。


「失礼、メスキーノ伯爵。娘はどうやら昼寝の時間のようですので失礼いたします」


父がそう言うと、一番上の兄が祖父から俺を受け取り一礼してさっさとその場を後にする。去り際にちらりと男の顔を見ると、その顔は酷く歪んでいた。うーん、何か恨みでもあるんだろか?


そんな事を考えつつ侍女に引き渡された俺は、出されたお菓子にすぐに夢中になってあの気持ち悪い男の事もサッパリ忘れてしまった。うん、甘いモノは正義。


「まったく、あの男は何を勘違いしているんでしょうね?」

「兄上、相手は伯爵ですよ」

「はっ、歴史も知らぬ新参貴族だろう?」

「そうだとしても、この場では控えて下さい」


美味しいお菓子をモグモグしている俺の横で長男と四男が愚痴をこぼす。どうやら兄達もアイツの事が嫌いらしい。我が家は子爵位でアチラは伯爵位。家の格はアチラの方が上ということは、爵位の順番も前世と変わらないようだ。


「『北の守護神』がどういう意味で呼ばれているのか知らない者が多すぎるのは問題じゃないか?」

「"守護伯"について正しく理解していない方は学院にも見受けられますね」

「爵位と顔しか見ていない輩が多すぎるんだ」

「今の王都は平和ですからね、身近な事として捉えられないのでしょう」

「王都が平和なのはお祖父様のお陰だろ?それに、そのせいでアーシェが理不尽な目に遭わないかが心配なんだ」

「アーシェが学院に入ったら僕達がしっかり守りますよ」

「当たり前だ」


ふむ、祖父は守護伯という地位らしいな。これは前世にない知識だからどれほどの地位なのかは分からないが…将軍とかそういった感じなのだろうか?うーむ、早く大きくなって調べたいぞ。


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