第4話 勇者と魔王システム

「あー…ヒトじゃなきゃ、俺は一体何なんだ?」

『種族は「亜神」…聞き覚えあるんじゃないかしら?』

「亜神…まさか」


俺が前世で死ぬ直前までプレイしていたゲーム。


俺はその中で『亜神』という、神の力を持つ種族のキャラを使っていたのだ。もちろん、普通では選べない種族で、取得するまでかなり苦労をしたっけ…


アタシ達はこの世界に直接手を出せないの。だから、神の声を受け取れる才能のある者達に「神託」として依頼を出してたんだけどね』


どうやら年々ヒトの能力が低下しつつあり、『神託』を下しても任務がなかなか進まないのだそうだ。それには、どうやら神同士の諍いが関係しているようで…


『このままでは世界が崩壊しかねないから、神に近い者を地上へ送ろうって計画があったの。そんな時に貴方の祖父を見つけ、その孫である貴方の死期が近いことを知ったの。経歴を見ても丁度いい人材って事で前世の記憶を持たせたまま転生させたのよ』

「それは先に言っておくべきだったんじゃないのか…?」

『いやだって、先に言ったら断られそうだったし。それに、あの子…貴方の祖父への贖罪も本当のことなのよ?だから…』

「断る」

『ほらやっぱりー!!!!!』


いや、そんな血みどろの戦いとかリアルでやりたくないし。ゲームの中だから良かったけど、実際に強大な力を持った奴なんて祀り上げられて不自由になるか、次の討伐対象になるか、山奥で隠居するしか選択肢はないだろ。自由に振る舞って魔王扱いされて討伐されるとか嫌だぞ、俺は。


『あぁぁぁぁ!ラノベの弊害ぃぃぃぃ!!』


女神が地面をゴロゴロと転がっている。神様の尊厳的なヤツは大丈夫なのか?


女神はしばらく転がったあと、気が済んだのかムクリと起き上がった。


『あのね、まずラノベの異世界知識は一旦横においてちょうだい』

「わかった」

『それで、まずこの世界のシステムについて説明するわ』


この世界には勇者と魔王が存在する。数千年周期で現れ、勇者が魔王を討ち取ることでこの世界は何度も救われてきた…というのが、この世界のヒト達の知る話。


実際は、世界に溜まる魔力の澱を魔王に仕立て上げてヒトの中から選んだ勇者に倒させて発散し、循環させているらしい。


しかし、長年魔王制作に携わってきた神が「自分の作品を壊されるのはもう嫌だー!!!」と魔王作りを拒否。別の神がなんとか形にするものの、やはり完全な浄化には至らず、少しずつ魔力の循環が滞ってしまい魔力を持つ生物すべてに悪影響が出つつあるらしい。


「つまり、その循環を手助けして欲しい…って事か?」

『そうなの!ね、簡単でしょ?』

「うーん…」

『まだ何か…?』

「その、循環って具体的にどうすれば良いんだ?」

『あぁ、適当にブラついて魔法を使ってくれたらいいの』

「…へ?」

『魔法を使う生物は常に体内に魔力を吸収して発散し続けてるの。まぁ、呼吸と同じね。それに加えて生物は移動するでしょ?そうすることで魔素の対流が起きていい感じに循環していくのよ』

「なるほど?」

『でも、生物の往来が少ない場所や諍いのある場所なんかは魔素が淀みやすいの。だから、力のある者がそうした場所に赴いて適当に魔法を使うだけで効果があるのよ』


ふーむ。ヒトの少ない場所なら目立たなくて良いかもしれないな。


『秘境で空気清浄機になってくれればいいの!ね、やってくれないかしら?』

「情緒の欠片もない例えだな」

『そう?やることは同じなんだけど』

「まぁ、目立つような仕事じゃなさそうだから構わないが…流石に直ぐは無理だぞ?」

『わかってるわよ〜。流石に赤ん坊に働けなんて言えないわ』

「それに、俺は貴族家に生まれてるから自由に動けるとは限らないぞ」

『えっ、そうなの?』

「…もう少しヒトの暮らしを勉強したほうがいいぞ?」


この世界では知らないが、貴族子女なんて親の決めた相手と結婚して一生家にいるのが多いんじゃないかな。世界中を旅して回る貴族子女なんてかなりのレアケースだろ。


『え…えぇぇぇぇぇ?!』


考えてなかったのか…先が思いやられるな。

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