第2話 転生からの転換

おぎゃぁぁぁぁぁぁ


室内に赤ん坊の声が響き渡る。

聞こえてくる声は鮮明だが、視界はボヤけていて良く見えない。フワッとした感覚がしたと思ったら暖かいモノが身体を包む。


どうやら、無事に転生出来たようだな。


狭間世で会ったのは異世界の女神。名前はフィリシュィオーネと言い、アーステラ…俺が転生した世界の神だ。


俺の祖父は、実はアーステラの住人で異世界からの『転移者』つまり、何らかの原因で世界の壁を乗り越えてしまった者だった。


思えば、祖父は身体が弱く晩年はずっと床に臥してたっけ。どうやら、アーステラの人間にとって地球は身体に合わない環境だったらしい。能力は普通の人より高めなのだが、環境のせいで常に虚弱状態になっていたようだ。


祖父の実子である父は大手企業の研究者として海外で活躍し、3人の姉は容姿の美しさと高い身体能力や頭脳そして芸に秀でていてそれぞれの分野で活躍していた。4人とも祖父の良い部分を受け継いでいたのだが、何故か俺は虚弱体質を受け継いでしまったらしい。


…ヤル気がないのは性格なのかもしれないが。


そんなワケで、亡くなった祖父は俺のことを物凄く心配していた。


死後、アーステラの女神と対面し世界の壁を越えさせてしまった事への謝罪を受けた祖父は、自分が受け取るお詫びの代わりに俺のことを頼んだそうだ。


虚弱体質の為に本来の寿命も短かったのだが、社会に出てからの無理が重なっていずれにせよ早く死ぬ運命だったらしい。そこで、寿命を繰り上げてアーステラへと転生させることにした。


幸いなことに、俺がオンラインゲームや書物を通じて魔法等に精通していたので他の神々も俺を異世界へ転生させる事に賛成してもらい、こうして赤ん坊として産まれたのである。


『…普通に転生させるだけじゃお詫びに足りないから色々付けといてあげるわね!』


転生の間際、女神はそう言っていた。俺としては不自由なく暮らせればそれで良いんだが…


それにしても、産まれたての赤ん坊はこんなにも退屈だとは思わなかった。いや、思考は大人のままだからかもしれないが…まず、動けない。手足が思うように動かないのには困った。それと、泣く以外で意思を伝える手段がないのも困りものだ。言葉は発せないので、泣いてアピールするしかない。


授乳と排泄の世話は恥ずかしかったな…今は慣れたが、中身は大人なので何のプレイをさせられてるのかと思った。


それと、驚いたのは視力と聴力だ。まず、視力は悪い。近くの物しか見えなくて、あとはボンヤリとしている。赤ん坊の視力って悪かったんだな。ボヤけた輪郭だけはわかるので、そのうちハッキリ見えてくるのだと思う。


そして聴力。胎教だと言って妊娠中から読み聞かせや音楽鑑賞なんかをするという話は知っていたのだが、赤ん坊の耳は音をよく拾う。周りの声ははっきりと聞き取れるのだ。視力は悪いのに聴力は良いという事に驚いた。


そして、その聴力のせいで俺は産まれてすぐに絶望する事となる。


「おめでとうございます!可愛いらしい女の子ですよ!」


…なんで?


なんで俺は女に転生してるんだろうか。転生だけじゃなくて転換もしてるじゃないか。


女神は色々付けたと言っていたが、大事なモノを失っているんだが???


オッサンが女児の肉体を手に入れてしまって、倫理的にどうなんだろう。自分の身体だからセーフなのか?わからない。わからないが、周りはとても喜んでいるしすでに産まれてしまった以上は仕方がない。


こうして俺は、女としての人生を始めることとなった。

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