神に選ばれしモブは世界を救わない〜転生先は神レベルの美少女でしたが世界を救うとか無理なんでモブに徹します〜

高井真悠

第1話 神に選ばれしモブ

「うぅ〜ん」


俺はその日、連日の残業で疲れた身体に鞭打って、サービス終了日を迎えたオンラインゲームを満喫していた…筈だった。


すべてを遊び尽くして、最後はお気に入りの場所で世界が終わるのを待って居たはずなんだが…何故か花畑の真ん中で寝ていた。


起き上がって周りを見渡しても、ここが何処だかサッパリ検討もつかない。夢でも見てるんだろうと再び寝転んで目を閉じて暫くすると、近くに人の気配を感じた。


『これ、二度寝するでない』


聞き覚えのある声。


慌てて目を開けると、そこには随分前に亡くなった祖父の姿があった。


「えっ、じーちゃん?!」

『うむ、久しいな』


じーちゃんはニッコリと笑っている。亡くなった人がここに居ると言うことは、つまり…


「俺、死んだの?」


死者がいる場所といえば『あの世』だ。実感も何もないからか、俺は妙に冷静だった。


目の前にいるじーちゃんは、元気だった頃の姿で立っているので、俺も腰を上げてじーちゃんの前へ立った。あの頃はじーちゃんがとても大きく見えていたが、俺はいつの間にかじーちゃんより大きくなっていたらしい。


『大きくなったの』


じーちゃんはそう言うと、昔のように頭をクシャクシャと撫でた。久し振りの感触に目頭が熱くなる。


「えーと、ここはあの世なの?花畑ばかりで何も無いんだなー」


あの世という場所は言葉だけしか知らないから、ここが本当にあの世かは見ただけではわからない。それに、俺とじーちゃんの二人きりなのも気になった。


『正確には狭間世と呼ばれておる。ここは現世とあの世の間にある世界じゃ』

「はざまよ?へぇ、それじゃこれから閻魔様の所へ行って裁判が始まるんだな」


今までの人生、善人でもなければ悪人でもない何処にでもいるな俺は何処へ行かされるんだろうか。


…できれば、じーちゃん達と一緒が良いな。


そんな風に思っていると


『お主は選ばれたのじゃ』

「…ふぇっ?」


じーちゃんが突然意味不明なことを言い出した。…選ばれた?どゆこと?


『アタシが説明するわ』


突然、後ろから女性の声が聞こえた。

慌てて振り返ると、神話の女神様みたいな少女が腰に手を当てて立っている。どこから現れたんだ?


この服、凄いなぁ。なんか若干浮いてるし…どんな技術なんだろうか?


そんな風に考えながらじっくり観察していると、少女が若干居心地悪そうに呟いた。


『…あの、続けて良いかしら?』

「あっ、どうぞ」


いかんいかん、うっかり観察してしまった。


『えぇと、物部タロウさん。年齢は35歳で彼女はナシ…というか、恋愛には興味ナシなの?!信じられない!』


…なんだコイツ


そんな目で見ていたからか、少女がコホンと軽く咳払いをした。


『アタシは惑星『アーステラ』の女神よ。貴方達風に言えば異世界の女神ってこと』

「異世界の?えっ、異世界って本当にあるんだ…。で、そこの女神様が俺に何の用ですか」

『あら、流石ゲンジロウの孫ねぇ〜。冷静だわ』

『ほっほっほっ』

「はぁ…」

『まぁいいわ、続けるわよ』


物部ものべタロウ35歳、あだ名はモブタロウ。性格は冷静で慎重派。自分から動くのは良いが他人に動かされるのは嫌い。手先は器用で頭もよく運動神経も良いが、常に身体の怠さに悩まされているので実力は発揮できていない。他人からの評価は「真面目で優しい」だが特に印象がない故の評価である。


小中高と常に平均的な成績で、そこそこの大学を出てそこそこの企業に就職。仕事と読書とゲームの毎日だが、それに不満はない。恋愛には興味がなく、交際経験はあるもののいつも自然消滅。歴代の彼女曰く「恋愛してる感がない」


趣味はモノ作りと読書とオンラインゲーム。読書はありとあらゆる本を読み込んでいて、知識は豊富。姉の影響で女性向けのファッションやメイク等の知識も持つ。


オンラインゲームでは身体の怠さは気にせず遊べるので能力を遺憾なく発揮し、サービス開始からトップランカーの座に君臨し続けていた。二つ名は『氷銀の魔女』。銀髪の女性キャラだったのと、クールな性格と魔法のスペシャリストだから…という理由からである。


ゲームのサービス終了が発表されてから、寝る間も惜しんで強敵を倒し続け、最後の敵を倒したその日、サービスの終了と共に心不全にて死去。


『…で、間違いはないかしら?』

「…たぶん?」


身内の前で語られて、ちょっとした公開処刑気分だ。というか…心不全で死んだのか、俺は。


『さて、ここに来てもらったのは…』

「あなたの世界に転生しろ…って事ですかね?」

『なっ、何でわかったの?!』

「そりゃ、余所の世界の女神がワザワザ俺の前に現れたんだし、そう考えるのが普通じゃない?」

『ねぇ!アンタの孫、察しが良すぎて怖いんたけど?!』

『いやぁ〜、流石儂の孫じゃの〜』

『…流石の一言で片付けるアンタもどうかしてるわ』


女神も言っていたが、俺の趣味は読書。その中にはラノベも含まれている。なので、すぐに察することが出来たのだ。何でも読んでおくモンだな〜。


『まぁ、そんなワケで異世界転生してもらうわよ!』

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