虎狩

第19話 虎狩(曹操軍)

 城に戻ったときには既に夕刻になっていた。完全に時間の感覚は吹き飛んでいて赤く染まる空を目の当たりにして、弱くなった南風が肌を撫でたことでようやく序盤の戦いを切り抜けることが出来たのだと実感することになった。


「お待ちしておりました」


 拱手をする薛邸せつてい楽進がくしんが出迎える。馬を降りて張遼ちょうりょう李典りてんも応じる。周りに居た兵卒たちは今にも叫びたいと分かるほどの空気がヒシヒシと伝わってきた。


「まずはお召替えをしますか?」


 挨拶もほどほどに薛邸が口を開く。李典と顔を合わせると方針は決まる。


「いえ、状況がどのように変化したか教えてください」


「分かりました」


 緊張感が溢れる局面を切り抜けたにもかかわらず薛邸は興奮の渦に飲まれることなく丁寧な物腰を崩さない。そのままに背を向けて歩き出す。


「馬を任せても良いか?」


 周りを取り囲んでいる兵卒の一人に馬を預けて張遼と李典は二人の後を駆け足で追った。影の差し込む場所に足を踏み入れると同時に蓋が吹っ飛ぶような鬨の声が遅れて勝利を祝福した。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

遼来~猛虎食む青嵐~ 焔コブラ @Bramble

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

フォローしてこの作品の続きを読もう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ

参加中のコンテスト・自主企画