第18話 青嵐(曹操軍)

「いやはや、予想の埒外ですな」


「今日ほど味方で良かったと思わずにはいられないです」


 城壁の上から戦場を俯瞰する薛梯せつてい楽進がくしんは興奮半分と呆れ半分といった口調で各々の感想を口にする。


 眼下に広がる光景は想像を絶するものだ。圧倒的な寡兵で多数を破る。項羽こうう劉邦りゅうほうの戦を始めにあり得ざる話ではない。だが、それを目の前で見せつけられたとなれば話は変わる。


「光明は見えましたね」


 ニヤリと口角を上げて薛邸が口を開く。自惚れでも楽観的でもない確かな根拠を持った言葉。それは楽進も同じだ。これまでの経験が同じ結論を導き出す。


「極められた痛撃は相当に応えるでしょう。まさか、千にも満たぬ軍団がここまで噛みついてくるなどとは夢にも思っていないでしょうから」


 二人が会話に花を咲かせている最中にも張遼の攻撃はいよいよ苛烈さを増し、敵の只中へと至る。これで何度目になるのか分からない。


「まさに鬼神ですな」


 敵が近寄らず、いつのまにか蹴散らされている。そんな夢想と笑われてしまうような光景を目の当たりにして楽進は無意識に呟く。


「天は二物を与えずと言いますが、人を超える存在は間違いなく存在するようです」


 彼方より僅かに聞こえる戦場からの音は鬼神の咆哮のように聞こえた。

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