青嵐

第13話 青嵐(曹操軍)

 未だ日も昇らない草原を騎馬の一軍が影のように抜けていく。一糸乱れずにそろり、そろりと闇から闇を渡り歩く姿は今日までの訓練の過酷さを物語っていた。張遼ちょうりょう李典りてんが率いる決死隊は馬の口、蹄に防音の処置を施して前進している。


 乾坤一擲。持久戦が望めない以上はこの一撃に全てを乗せなければならない。


 昨日までに斥候が確認した情報によれば、孫権そんけん軍の先陣は陣の大半を構えたとのことだった。推察するに本陣との合流が果たせ次第本格的な攻城戦に出る腹積もりだったのだろう。なるほど。十万の軍勢による猛攻を受ければあの程度の城郭は塵芥の山に吐息をかけるように吹き飛ぶ。


 しかし、数を頼みとした行軍には必ず付け入る隙がある。事実として、孫権軍の布陣は奇襲への備えが万全とは受け取れないものだった。いや、準備をしたつもりだったのだろうし、並みの将を相手にしたならば防ぎようはあっただろう。


 ―ありがたいものだな。


 張遼は曹操の慧眼と訓練が行き届いた決死隊の双方を思い浮かべてほくそ笑む。ひとまず、真っ先に為すべきことは達せられるのだ。


 彼我の距離は目と鼻の先。今すぐに防備に走ろうと到底間に合わないところまで詰めることが出来ている。

 針先に糸を通すが如き極小の希望であれども『罅』には違いない。ならば、晒してくれた敵の穴を突かぬは不作法。


 鮮やかに、魅せる戦をここで披露する。


「突撃ィィィィィ‼」

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