第9話 襲来(孫権軍)
コン、コン、コン。杭を打ち込む槌の音が孫権の耳朶を打つ。夕餉の用意も並行して行われていて黄昏の只中を漂う汁物の匂いに腹の虫が騒ぎそうになって抑え込む。ここで鳴らしてしまっては格好がつかない。
「作業は順調のようだな」
「殿‼」と製作図と睨めっこしていた呂蒙が顔を上げる。作業に当たっていた兵士たちも顔を上げる。
「作業具合ですが、合肥城正面の備えは今夜中に凡そが完了します。全体は日が昇り切るころには終わる予定です」
「よし。作業は一旦中止だ。腹ごしらえをしてから一気に進めよう」
孫権が告げると全員が手を止めてぞろぞろと移動を始める。あとに孫権と呂蒙が続く。草を踏む音、肌を撫でる初夏の風が心地よい。
「揚州を抑えることが出来れば許昌への道は開けよう。そのためにもこの戦は必ず制さなければならない」
「殿のお言葉に反論するつもりはございません。しかし、このままで良いとは私には到底思えません」
前を見る孫権の言葉に呂蒙は少し険しい顔をして答える。
「劉備にこのまま勢いを与えて…ということか?」
呂蒙は頷いて答える。現在進行で掲げている孫呉の指針ではあるが孫権も思わないところがないわけではない。
今の孫呉は
劉備は勢いに乗っていて西方の曹魏を相手に有利に戦を進めているのに対して孫権は赤壁以降は煌びやかな成果を上げることは出来ていない。口に出さずとも多くの者たちが現状に対して不満、不安を抱いていることは孫権にも分かっている。当事者なのだから当然といえば当然か。
「特に関羽は無視できません。我々を完全に舐め切っています。あの態度‼今思い出しても…」
前半こそ落ち着いていた口調ではあったが後半の言葉は酷く荒れている。これは流石に止めねばと孫権は呂蒙に竹筒を軽くぶつける。大事な戦いを眼前に控えているのに波風立てるのは避ける必要がある。
「そのことは後でまた話そう」
短く告げると孫権は顔を前に向けた。
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