第4話 襲来(孫権軍)

「殿。お考え直しはいただけませんか?」


「それは出来ぬことだ。この戦は私が先頭に立たねばならん」


 必死に思いとどめようとする呂蒙りょもう孫権そんけんは一蹴する。言い出したら聞かないと分かってはいても不安は拭いきれないからだ。


 巣湖そうこに着岸してあとは北進するだけの段階。機会はほとんど残されてないため賭けに出るも孫権はやはり頑として首を縦に振る気配はない。


「先の赤壁は我らが寡兵で十全に備えたからこそ勝利が出来ました。此度の戦は真逆。敵は既に策を張り巡らしている可能性が高い。その只中に殿を行かせるなど…」


「虎穴に入らずんば虎子を得ず。合肥という要衝はそれだけの価値がある」


 毅然とした面持ちに奢りはない。だが、追い詰めているはずの側が追い込まれる側になるなど枚挙に暇がない。しかも、今回はこちらが侵攻する側だ。赤壁のときとは勝手が違う。


「では、呂蒙よ。あの2人のことは任せたぞ」


 示す2人は甘寧かんねい淩統りょうとうのことだ。目を離そうものなら殺し合いを始めかねない。部下に間を取り持つように言い含めてはあるも不安ではある。


「承知しました。殿もご武運を」


 仕方なしに呂蒙は孫権を見送る。暮れていく黄昏の空は燃えるようで、今回も赤壁のように勝てるはずだと己に言い聞かせた。

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