2-4
二日後。牡丹宮に呼び出された瑞花を待ち受けていたのは、美羽蘭と雲奎だった。
まさかの二人が揃っていたことに、瑞花は驚く。
「瑞花、貴女が犯人の目的を見出してくれたおかげで、とても助かったわ」
他にも驚くことがあったが、美羽蘭がにこりと微笑みながら話を始めてしまったのでそのまま傾聴の姿勢を取ることにした。
「……犯人捜しはもう済んだのでしょうか?」
「ええ。犯人は、下級妃の一人だったわ」
曰く、その妃嬪……というよりも、彼女の実家が龍をひどく信仰していたらしい。そして不老不死になりたいと願っていたのだそうだ。
美羽蘭の爪や髪を集めていたのも、不老不死の妙薬を作るため。
しかし何度作っても効果はなく、ならば量を増やそうという話になり、屑籠からコツコツ髪や爪を集めていたのだが。牡丹宮の下女が見つかり、それが難しくなってしまったそうだ。
そして今回、すれ違いざまに美羽蘭の髪を切るという凶行に及んだのだという。
「つまり、下女に指示を出していた主犯も、同じ下級妃だったということなのですね」
「そうなの。後味は悪いけれど……まあ、これで一件落着ね」
(確かにそう)
瑞花はこくりと頷き――そしてちらりと、雲奎のほうを見た。
そして躊躇いながらも口を開く。
「……公主殿下。一つ気にかかっていることがあるのですが、よろしいでしょうか?」
「もちろんよ」
「……皇帝陛下があのような責め苦を受けられているのは、一体どうしてなのでしょう」
そう言う瑞花の視線の先には――床に正座した状態のまま、美羽蘭の飼っている大量の愛玩動物に絡まれている雲奎の姿があった。
膝、肩、頭、腕、と、とにかく様々な動物たちが彼の体に乗り、まとわりつき、のしかかっている。まるで何かの儀式のようだ。
しかし肝心の雲奎がかなり青い顔をして体を震わせているのを見るに、責め苦を受けているのは間違いないと思う。
(あの、冷徹と言われる皇帝陛下が、どうしてこんなふうに……)
瑞花が驚いていると、美羽蘭は輝かしいまでの笑みを浮かべてみせた。
「簡単よ、愚かなお兄様に罰を与えているのよ」
「罰、ですか……」
「ええ。わたくしのために、御身を犠牲にした報いよ」
すると、今まで黙っていた雲奎が口を開く。
「そう言うが美羽蘭、私は死なないし、傷ついたところですぐに治る、」
「あらお兄様? わたくしがいつ、お話になってもよろしいと許可いたしましたか?」
「……」
美羽蘭からの一言により押し黙ってしまった雲奎を見て、瑞花は悟った。
(後宮だけでなく、宮廷そのものの真の支配者は、公主殿下ね……)
だって一国の皇帝がこんなふうにたじたじになりながらも機嫌を取ろうとする相手など、きっとどこを探してもいないはずだ。
しかし瑞花の興味をくすぐったのは、美羽蘭が怒っている理由だった。
(公主殿下は、陛下を心配して怒っている)
そして雲奎が無茶なことをしたのも、美羽蘭に実害が出たから。つまり妹を心配しての行動だった。
何より不思議なのは、二人の間に立場による壁がなく、そしてなんの打算もないままお互いにお互いを心配し合っている点である。
そんな二人の様子を見ていると、瑞花の中にある『家族』という概念が揺らいでいく。
――瞬間、ちりっと。自分の中にある何かが痛んだ気がした。
瑞花が思わず首を傾げていると、美羽蘭が彼女を見た。
「それで、瑞花にはご褒美を上げようと思っているのだけれど。何がいいかしら?」
そう言われ、思い浮かんだのは美羽蘭と雲奎、二人の姿だった。
しかし頭の中に浮かんだそれをすぐさま打ち消した瑞花は、ゆっくりと口を開く。
「美味しいお菓子と書物さえいただければ、私は十分です」
美羽蘭はそれに対し、欲がないのね、と笑った。しかしそれは違う。
瑞花が欲しいものは今も昔も変わらない。
(あの、今にも死んでしまいそうだったときに助けてくれた手の相手に……
そしてあれが人ではないことを、瑞花は知っている。
だから彼女は、不毛だと分かっていながらも怪異に関しての事件に食いつくのだ。
だってそれしか、あれらの存在を証明する手段も、手掛かりもないのだから。
そう思いながらも。
瑞花は曖昧に微笑んで、出されたお茶を口に含んだのだった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます