第5話 観察眼
料理は得意だから。
その言葉は本当だった。
夕食で出された料理は、どれも絶品だった。
味付けも自分好みだ。
「なんで俺の好みが分かったんだ? それも悪魔の能力なのか」
熱い煎茶にほっとした表情を浮かべ、雅司が聞いた。
「ええそうよ。私たち悪魔には、人間にない様々な能力がある。これはその中でもお気に入りの能力、観察よ」
「観察ね。どんな能力なんだ?」
「私たちは人間と契約して、その対価として魂を回収する」
「そうだな」
「その為に私たちは進化してきた。種の繁栄に、魂は必須だから」
「何もしなければ、全部死神が持っていくんだったな」
「そういうこと。ただでさえ分の悪い戦いなの。昨日あなたが言った様に、私たちには横から奪い取ることしか出来ないから」
「根に持ってたのか? 悪い、
「分かってるわよ。でもまあ、その通りだからね、痛いところを突かれたと思ったわ。
残りの寿命を投げうってまでして、手に入れたい願望。そんな物を持ってる人間、そうそういるものじゃない。適当に選別して声をかけたところで、結構です、そう言われたらどうすることも出来ない。だから、契約しそうな人間を見つけなくてはいけないの」
「なるほど」
「その為には、その人間がどういう存在なのか、それを知らなければいけない。どんな些細な事柄も見落とさず、全てを見抜く必要があるの」
「それが観察、という訳か」
「今、どうして好みが分かったのか聞いたけど、それもそう。あなたの表情、仕草、言葉に対する反応。そうね、瞳孔の開きや発汗、呼吸音、心拍数、瞬きの回数とか……それらを観察することで、その人間が何を考え、何を求めているのか分かるようになっていったの」
「すごいな。僅かな時間一緒にいただけで、俺の反応から味の好みまで理解したのか」
「すごいでしょ。もっと褒めていいのよ」
「ああ、本当にすごいよ。流石ノゾミだ」
「何よ、珍しく素直じゃない。そんな雅司も可愛いけど」
ノゾミが照れくさそうに笑う。
「いやいや本当、お世辞抜きに感心したさ。そんな能力で見られたら、俺たちなんて丸裸同然じゃないか」
「まあ、そうなんだけどね。ふふっ」
「俺たちより、悪魔が上位の存在なんだと思い知らされるよ」
「雅司ったら、褒めすぎだって」
「でもまあ……だからこそ今、俺の中に大きな疑問が生まれた訳で」
そう言って、今度は雅司がにっこり微笑む。
「どういうこと?」
「そんなすごい能力があるのに、どうして俺なんかに声をかけてきたんだ?」
その言葉に、ノゾミが目を泳がせた。
「昨日の反応、ノゾミが俺を理解してたとは思えない。俺が何も望んでない男だってことも、分かってたようには見えなかったぞ」
「それは、ね……あははっ」
「笑って誤魔化すな。何か理由でもあったのか? 確かに俺は昨日死ぬつもりだった。そんな男なら簡単に契約する筈、そう考えたのは分かる。でも観察に特化した種族と言うなら、俺の難易度が高いことぐらい分かりそうなものじゃないか。俺なんかに比べたら、適当に目をつけたやつの方が、よっぽど成功率高くないか?」
「……誤魔化せるとは思ってなかったけど、やっぱり無理だったか」
「何かあるんだな」
「ええ。今回の私の任務、それはね、あなたの魂の回収なの」
「俺じゃないと駄目ってことか」
「そういうこと。雅司のような人の魂、と言うのが正しいんだけど」
「説明いいか」
「今更隠すつもりもなかったからね、いいわよ。雅司、あなたの魂はね、特別なの」
「……」
「魂の価値は、その人の背負ってる感情で決まるの。喜びや怒り、哀しみや絶望。それらが全て、魂に刻まれてるの」
「それが多いほど、価値があるってことか」
「ええそう。全く、あなたって本当、察しがいいわね」
「それで?」
「あなたの魂にはね、絶望が詰まってるの。その辺の人間が束になっても
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます