第5話 フリーになった
話しているうちにアスーナは目に涙すら浮かべていた。辛かった思い出を思い出し、更にハラドに同情されて感情が高ぶったためだ。婚約者と妹に振り回される苦痛と悔しさ、そんな境遇を同情してもらえる思いやりに触れて感極まったのだろう。
もしくは知らぬ間に強い酒を飲んで思考が感情的になった影響か。
「す、すいません……」
「今は泣いていいよ。それだけの思いをしてたんだろ?」
「はい……」
ハラドは個人的な目的を遂行するためにもアスーナを慰め、そして真剣な顔で断言した。結果的にハラド自身のためになるように誘導するために。
「ハッキリ言おう。もっと早く婚約を白紙にするべきだったと思うな。ゲムデス侯爵は悪い噂を聞かないが、息子の教育を間違えたと言われても仕方がない。カリブラは近いうちに廃嫡されてもいいだろう。彼はそれだけのことをした」
「やっぱりそうですよね……」
「これからは彼に囚われることはない。もう笑ってもいいんだ」
「はい!」
笑ってもいい。そう言われてアスーナは本当に笑顔になる。普段から精神面で強いためか、誰かに励まされたり慰めてもらうことが少ない事もあって本当に嬉しかったのだ。
「………話は変わるけど、今の君はフリーということでいいんだよね?」
「フリー? あっ、そうですね。婚約破棄したわけですから………」
「新たに婚約者選びをしないとだね」
「そうですね……婚約破棄となった私だと良い条件は中々無いでしょうが……」
アスーナとカリブラの婚約が破棄された以上、アスーナは貴族令嬢として新たに婚約者を探さなくてはならない。そう思うとこれからが大変だ。本来、婚約破棄された令嬢というのは傷物扱いされる。新たな婚約者を見つけるのは困難なことになるのだ。
しかし、それがハラドの目的と繋がった。
「今の君がフリー……それなら、俺なんかどうかな?」
「………え?」
「君の婚約者に俺がなるのは良いかな?」
「………ふぇ?」
アスーナは一瞬、ハラドに何を言われたのか分からなかった。しかし、すぐに脳が理解に追いついた。
「えええ!? それってどういうことですか!? 何かの冗談? ドッキリか何かですか!?」
「カリブラと一緒にされるのは嫌だな。冗談でもドッキリでもなく本気だよ。俺と婚約する選択肢はあるかってことだよ。分かりやすく言えば俺からの求婚ってわけさ」
「ええええ!?」
アスーナは酷く動揺した。無理もない。あの公爵令息のハラド・グラファイトが伯爵令嬢の自分に求婚しているというのだ。さっきカリブラに婚約破棄されたばかりだというのに。
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