第6話 公爵令息の求婚
「な、ななな何を仰っているのですか!? こんな求婚がありますか!? しかもこんなタイミングで!?」
「思ったより動揺するね。まあ、俺も自分で言って都合が良すぎるかなとは思ってるけど、マジで本気の求婚だよ」
「こ、公爵令息の方が私に……もしかして、貴方も婚約破棄されたのですか?」
「いやいや、俺の方は婚約する相手を長いこと決めていなかったから両親にそのことをせかされてたんだ。このパーティーって実は俺の婚約者を決めることも目的としてたんだ。ついでだけどね」
「そ、そうだったのですか……」
このパーティーはグラファイト公爵家の主催パーティーだけと聞いていたアスーナは意外そうな顔になった。ハラドはこの国では珍しい黒髪で左右の目の色が違うのだが女性に人気がある。それに公爵令息で文武両道の美男子なのだから婚約者など選び放題な気もした。
「意外そうな顔するねえ。まあ、仕方ないか。俺って公爵令息だから婚約者なんてすぐに決まるだろうと思われがちだけど、立場が大きすぎてかえって相手が見つからないんだよ。それにこの国では珍しい黒髪で左右の目の色が違うって特徴的すぎる印象があるせいで女性によく見られることはあっても深い仲にはなりにくいんだ」
「それは……ありそうですね……」
確かに上級貴族ともなれば逆に婚約者を決めるのに難航することがある。貴族は婚約相手が爵位が上か対等に近い立場の相手を望む傾向が多い。もしくは爵位が一つ下の立場の相手だ。下手に立場の差が大きすぎると関係にほころびが生まれやすい。それを避けるために婚約してを選ぶのに最新の注意をするものだ。
そういう意味では、公爵ともなれば、ましてや「特徴的すぎる印象」を持つハラドが婚約者を選びに難航するのは納得できる。
「でも、それなら何故私なのですか? 私は婚約者に婚約破棄されるような女ですよ。ハラド様の相手としては不相応ではありませんか?」
「婚約破棄って言っても、あのカリブラとのだろ? この場合はカリブラの方が悪い。君みたいな才色兼備で優しい女性に悪戯だのドッキリだのをやらかして楽しむ奴の気がしれないよ」
「ハラド様……」
「それに君自身は男に結構人気があるんだよ。男子の間でカリブラのことを妬ましく思うものが多いくらいにね。多分、婚約破棄のことが広まれば君を狙う男は多いはずだ。もっとも、俺の婚約者になればそんな事にならないだろうけどね」
「ええ!? そんな、私なんて……」
私なんて、というアスーナだったが確かに一部の男性陣から熱い視線を向けられることがあった。何か嫌なものを感じたが、ハラドが言っているような意味ならば分かる気がした。
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