第3話

 マリカの名刺をもらってから、彼女に連絡をするのを2週間待った。正確には16日間だ。その間毎日、彼女から連絡があるんじゃないかといつも電話を気にしていた。でも2週間が過ぎても連絡が来なかったので、このままだと連絡が取れなくなる気がして、結局俺から連絡することにした。

 さんざん考えて悩んだ挙句、話しがしたいから会えませんか、と短いメッセージを送った。彼女から返事が届いたのはその数時間後で、お茶をするかごはんを食べるか聞いてきた。彼女からのその返信を読むまで、俺のことを覚えてないんじゃないか、とか、断られるんじゃないか、とかそわそわした気分で何にも集中できなかった。今まで女の子に連絡しないで文句を言われたことが何度もあったけど、彼女たちはこんな気持ちだったのかな、と少しかわいそうに思った。

 単純に、お茶をするよりごはんを食べる方が、長い時間マリカと一緒にいられると考えた。平日は16時以降ならいつでも空いていると返信した。本当は火曜と木曜の夕方は塾があったけど、優先順位は明らかだった。俺の返信から30分後くらいに、金曜の17時半に恵比寿にあるビストロでごはんを食べましょうと、お店のウェッブサイトのリンクが送られてきた。俺は、わかりました、と短いメッセージを返した。

 彼女とのたったこれだけのやり取りでカッコが悪い自分になっている気がした。マリカが相手だと彼女を俺の思惑通りに動かすどころか、自分自身すらうまく把握できない。それはたぶん、彼女が年上で大人だからなんだろうと思った。俺が考えていることは何でも彼女に見透かされているような気がした。俺は男ですらなく、ただの不器用な子どもに戻ったみたいだった。

 彼女から送られてきたサイトを見ると、普段俺が友だちと行くような感じの店じゃなさそうだったけど、それは想定範囲内だった。制服のままだと入りにくそうだったから、金曜日に学校が終わると急いで自転車で家に戻った。汗だくだったせいで簡単にシャワーを浴びた。私服に着替えてから、財布にいつもより多めのお金を入れて待ち合わせ場所に電車で向かった。

 俺は約束の20分前に店に着いてしまった。待ち合わせに遅れることが多い俺としては滅多にないことだった。辺りを見回してから大きく深呼吸をして、店の入り口から少し離れたところでゲームをしながら待つことにして、パンツのポケットから電話を取り出した。

 10分くらいゲームに集中していたら「こんにちは」と横から声が聞こえ、顔を上げるとマリカが微笑んで立っていた。

 マリカは白いシンプルなシャツを着て、キャメルのパンツと黒いパンプスを履いていた。ありふれたコーディネートのはずなのに、彼女が着ているとすごくおしゃれに見えた。なんとなく、ひとつひとつのものが高い物なんだろうなという気がした。

 「こんにちは」と口にして、俺は笑顔を作ろうと思ったけどうまくできなかった。

 「波多野……陽太くん」

 マリカはまるで確認するように俺の目を見て名前を呼んだ。

 俺は「……はい」と間抜けな返事をしてしまった。

 この人の前だと俺の顔も思考も硬直して、どう振舞うのが自然なのかわからなくなった。いつもだったら知り合ったばかりの女の子とでも適当に会話ができるのに、マリカを前にするとひとつも適切な定型文が見つからず、頭の中が真っ白になった。

 彼女はやさしく微笑んで「波多野くん、お腹空いてる?」と聞いた。

 俺はまた「はい……」と繰り返し、一瞬ためらってから「俺のことは、陽太でいいです……周りの人、みんなそう呼ぶんで」と付け足した。

 あいかわらず俺の一挙一動はひどくぎこちなくて小学生に戻ったみたいだった。

 マリカはレストランの入り口の方に向き直り「今日お昼を食べ損ねちゃってね。私、今すごいお腹空いてるの。それじゃ、陽太くん、中に入ろうか」と少し首を傾げ、俺が一歩踏み出すのを待って彼女も歩き始めた。

 隣を歩くマリカは記憶よりも小柄で、俺の肩の位置に彼女の頭があった。立って話をすると俺が彼女を見下ろすことになる。

 カジュアルなビストロとサイトには書いてあったけど、店内は濃い茶色のテーブルとボルドーの壁で統一されていて、おしゃれなレストランの雰囲気だった。制服のまま来ないでよかったと内心ホッとした。入り口で彼女が名前を告げると一番奥の4人掛け席に案内された。入り口付近のテーブルは結構埋まっていたけれど、まだ時間が早いせいなのか俺たちの周りのテーブルには誰もいなかった。

 俺の母親は休みの日にゆっくりとぜいたくな食事をするのが大好きで、俺が10歳を過ぎた頃から月に一度くらいの頻度で、都内の有名レストランに俺を連れて食べに行くようになった。俺は今日、カーキのチノパンに黒いポロシャツを着て白のスニーカーを履いていた。母親とレストランで食事をする時によく着る服装だった。

 ここは俺の母親が選ぶような高級で形式ばった店ではなさそうだったけど、母親じゃない年上の女の人と食事に来るのは俺にとって初めてのことで、自分でも驚くほど緊張していた。

 マリカは席に着くと「まずはオーダーして、それからゆっくり話そう」と言って、メニューを開いた。彼女はメニューを眺めながら「陽太くんは、ステーキとパスタどっちが食べたい?」と聞いた。

 俺はマリカの質問に数秒考えてから「えっと、ステーキがいいです」と答えた。

 「ここのステーキ、とってもおいしいらしいよ。飲み物は何がいいかな?私はサンペレグリノを頼むけど、陽太くんは何飲む?」

 ほんとは炭酸水は苦手だったけど、俺も同じもので大丈夫だと答えると、マリカはテーブルから距離を空けて待機していたウェイターに軽く手を上げ合図をして、炭酸水とトマトのブルスケッタ、彼女のヤギチーズのサラダと俺のステーキをオーダーをした。俺は肉の焼き加減だけ「レアで」と自分でオーダーした。

 俺とは対照的に、マリカは目の表情から指の先までくまなく自然な所作で、それなのに些細な仕草でさえ俺の目には優雅に映った。彼女がこんなお店で緊張するわけもないし、俺のことを男として意識してないのは一目瞭然だった。

 たぶんこの人は、俺が緊張してることを知ってるんだろうな。なんとなく、そんな気がした。

 食事が来るのを待っている間、マリカは俺の学校のこととか、どの辺に住んでいるかとか、一般的な質問をしてきた。俺が最小限の言葉でぎこちなく返事をするたびに、彼女についても教えてくれた。そのおかげで、俺の間抜けな受け答えでも不思議とちゃんと会話が成り立ってるみたいに聞こえた。

 自分が今までにないほど緊張しているのが、炭酸水の入ったグラスを持つ震える手を見て再認識せざるを得なかった。

 俺はなんでこんなに緊張してるんだろう、と自問して理由を探しながら冷静になろうと努めた。年が離れてるけどマリカは単にきれいな女の人っていうだけで、俺の目的はいつもと変わらないんだ、と自分に言い聞かせた。カテゴリーは違っても、いつも通りのターゲット、だ。

 マリカは水をひと口飲んでから、何十万もしそうな白い革のバックに手を入れ、ブルーとパープルのUSBをふたつ取り出し手を伸ばしてテーブルに置いた。

 「これにね、色々な種類のイラストのサンプルとか、簡単に扱えるグラフィックのアプリを入れて持ってきたの。よかったら使ってみて」

 俺は、彼女がなんでそんなものを俺に渡すのか見当がつかず、無意識に首を傾げて、彼女の指の先にあるUSBをじっと見つめた。

 マリカは俺の反応を見ながら混乱した様子で表情を曇らせた。

 「あれ?もしかしてあんまりこういうの、必要じゃなかった?陽太くんはイラストに興味があるのかと思ってたんだけど……」とマリカは俺の目をのぞき込んだ。

 俺は彼女のまっすぐな視線を受け止めてやっと理解した。バイト中にマリカの絵を見たいと言ったせいで、彼女は俺がイラストに興味があってそれに関しての情報収集のために彼女に会いたいと思ってたんだ。

 俺は誤解させたことを弁解するような口調で、俺は絵は描けないし、とくにイラストに興味はないと正直に伝えた。

 「いつもあのカフェで真剣に絵を描いてたから、どんな絵を描いてるんだろうなって思って。それで見てみたかっただけなんだけど……」

 するとマリカは行き場所を失ったUSBをバッグにしまいながら優しく微笑んだ。

 「そっか、私の早とちりだったね。残念だなぁ。私はてっきり、陽太くんは絵の勉強をしたい子なんだと思ってたんだけど」

 マリカはそう言いながら、俺の胸を息苦しくさせる笑顔を浮かべたけど、いつもより少しだけぎこちない感じがした。

 「陽太くんは、高校何年生なの?」

 マリカは話題を変えて俺に質問を続けた。

 俺は中学3年だと言うと、マリカは大きく目を開いて「えっ?!陽太くんて中学生なの?ずいぶんと大人びてるねぇ」と俺の顔をまじまじと観察した。

 俺は気恥ずかしくなり、彼女から目を背けて誰もいない隣のテーブルに目をやるしかなかった。

 そんな俺の態度を見てマリカは微笑みながら「私、陽太くんは高校生だと思い込んでた……そっか、私たちって親子でもおかしくない年齢差なんだね」と明るく笑い、「なんか、自分の子どもでもおかしくない年の子が、こんな魅力的な男の子に成長してるのを見せられると……自分の歳を再認識させられるなぁ」と少し頭を右に傾けてにっこりした。

 俺のことを子ども扱いしてるような気がして「……マリカさんが……」と緊張しながら彼女の名前を発音した。

 「マリカさんが、俺の母親に見えるわけないでしょ」

 俺が精一杯強がって彼女の目を見つめながらそう言うと、彼女はいたずらっぽく微笑んだ。その笑顔は彼女を幼く見せた。

 「私ね、息子がふたりいるの。下の子の翔は今5歳で……」

 マリカは少し間を空けてから「上の大輝は、陽太くんと3歳しか変わらない12歳なの」と得意気に言った。

 俺が愕然として言葉に詰まっていると、俺の反応を見ておかしそうに「驚いたでしょ?」とマリカはとても満足した様子で言った。

 俺はそんな彼女の態度を無視して、頭の中で彼女の歳を推測し始めていた。

 「大輝はね、私の夫と前の奥さんの子どもなの。だけど、もう6年以上一緒に暮らしてるし、私は大輝と翔のふたりの母親だと思ってるの。私ね、もうすぐ33歳になるんだ」

 俺が聞くまでもなくマリカは自分から歳を明かした。

 俺とよりも、俺の母親との方が年齢差が少ないんだと思うと、どう反応したらいいのかわからずグラスを取って水を一口飲んだ。炭酸水は口の中でガスがはじけ、喉を通る時にひどく苦く感じた。

 けど、だからって彼女に対して興味を失ったわけでも、彼女の魅力が陰ったわけでもなかった。俺にとっては、大人の女の人の歳なんてただの数字で、マリカが23でも33でも大して違いはなかった。

 ただ年齢差を考えると、ほかの女の子たちみたいに簡単にはマリカは俺の思い通りにならないことは予想できた。

 それでも俺は、今日マリカと会ってることに満足だった。バイト先で彼女の連絡先をもらってから、ただ彼女と話をしてみたかった。それに、彼女が結婚していることにもあまり驚かなかった。さすがに、俺と3歳しか違わない息子がいることはショックだったけど、初めてマリカを見た時からなんとなく、彼女がひとりなはずがないと感じていた。

 結局、マリカが結婚していても、子どもがいても、18歳年上でも、俺にとってはどうでもいい気がした。今俺の目の前にいるこの人が、俺と楽しそうに話して笑ってくれるなら、どんな関係でも彼女と会っていたい、その時に俺が望んでいるのはそれだけだった。

 自分の感情を頭の中で整理してみて、こんなふうに思う相手は初めてだなと自覚した。俺はなんでこの人にこんなに固執してるんだろう。

 俺たちは運ばれてきた料理を食べ始めた。それからしばらくふたりとも食べることに専念して、数分間の沈黙に囲まれた。

「波多野陽太くん……」

 マリカは突然、発音を確かめるように俺のフルネームを口にした。俺はどう反応すればいいのかわからなくなって無言でいると、マリカが続けた。

「なんか、陽太くんの名前ってスポットライトを浴びるような人生になりそうだね。きっと、たくさんの人の中心とか、上に立つ人になるような気がする」と目を細めて笑った。

「それって……単に、太陽からの連想じゃないんですかね」と俺は無表情に答えた。

 マリカは「うーん……」と視線を上に向けて考えている様子だった。

「それもなくはないけど、でもそれだけじゃないよ。私の前にいる陽太くんと、キミの名前が私にそういう印象を与えたんだよ、きっと」

 俺をどんな角度で見たら、そんなふうに思えるんだろうと不思議だった。

「陽太くん、今、身長いくつあるの?」とマリカがヤギのチーズとクルミがのったサラダを、フォークとナイフを使ってキレイな動作で食べながら聞いた。

「177とか8くらい……だと思う」

「背が高いよね。高校生になっても、これからきっとまだ伸びるよねぇ。陽太くん、モデルになれるんじゃない?」と屈託のない笑顔を向けた。

 よく人から言われる言葉だった。なんでかわからないけど、俺はこの褒め言葉が好きじゃなかった。

 「俺、そういうの、全然興味ないから」とマリカを見ないでステーキを食べ続けた。

 俺の成長のことなんて関係ないじゃん……俺はあなたの子どもでもないし、親戚でもない。俺はマリカに子ども扱いされてるのが気に食わなくて、イライラとしながら心の中でつぶやいた。

 もし俺がこの人と同じくらいの歳の男だったら、この人はどんな話をして、どんな笑い方をするんだろう……

 俺は無言でブルーチーズのソースがかかったステーキを切り、ふた切れ口に運んでから水飲み、ちょっと気持ちを落ち着かせてからグラスをテーブルに戻した。

 マリカも何も言わずに自分のサラダに集中していた。

 マリカは、彼女の言葉が俺の気に障ったことに気がついてると感じた。その瞬間俺は、この人、わざとこんなことを言ってるんだと気がついた。俺が今日会いたいって言った理由を察して、きっと予防線を張ってるんだ。これ以上近づくな、って。

 少し冷静になった頭で考えてみると、俺がイラストに興味がないって言ったあたりから、俺と彼女の歳とか子どもの話が多くなってるような気がした。

 マリカはサラダを食べ終えると「陽太くん、今流れてる音楽知ってる?」と全く違う話題を始めた。

 きっと俺の不満気な反応を、たぶん彼女は感じ取ったんだろう。それからは俺との年齢差を意識した話題がなくなった。

 普段俺は、あまり自分のことを話したいとも思わないし、誰かのことを知りたいと思うこともないから、こういう状況で質問をすることはあんまりない。

 けど、マリカが音楽の話をすればその音を聞いてみたいと思ったし、イラストの仕事の話をすると見てみたいと思った。食べ物の話を聞いていると食べてみたいと思ったし、外国の話を聞いていると行ってみたいと思った。

 マリカは、ハミングしてるみたいに自然な流れで、次から次へと話題を変えて話した。いつの間にか俺も知りたいと思う気持ちから自然とたくさん質問をしたし、一緒に笑ったり、文句を言ったり、びっくりするくらい彼女の話の中に引き込まれていた。

 俺の中に張り詰めていた緊張はいつのまにか消え去って、彼女と話をすることがただひたすら楽しくて、時間が信じられないスピードで過ぎていった。年齢とか男だとか女だとかの枠なんて存在してなくて、マリカは俺の言葉を心の奥で聞いて受け答えをしているように感じたし、俺もマリカの話すことが皮膚から吸収されてるみたいに俺の心に響いていた。こんなにも誰かと話すことに夢中になったのは初めての体験だった。

 ビストロを19時近くに出てから、俺たちは代官山方面に向かってゆっくり歩きながら話した。日は暮れていたけど、昼間の熱がまだ地面から湧きだしていた。それでも、爽やかな風が吹いているせいで外の空気は心地よかった。彼女が話題にすることは、お皿の上の野菜からヨーロッパのコンサート会場の話まで、膨大な新しい情報として俺の中にインプットされていった。彼女の話を聞いていると、この世界はおもしろいものであふれていて、俺が知っているよりも楽しい場所に思えた。マリカの隣にいると、彼女がそんなふうに周囲の世界を輝かせているようにさえ、俺には感じた。

 この人と生活したら毎日どんな風景が見えるんだろう。旅行に行ったら、どんな景色が広がるんだろう。

 ゆっくりとした口調で、俺の知らない遠い場所の話をするマリカの横を歩きながら、そんなことを想像しない訳にはいかなかった。

 15分くらい歩いたところで、大通りに出るとマリカは「陽太くんの家は、ここからそんなに遠くないんじゃない?」と急に俺を現実に引き戻す質問をした。

「電車だと一回渋谷に出ないと、だけど……」

 俺はまだ帰りたくなかった。もっと彼女と話していたかった。

「それじゃ私、この先でタクシー拾うから、陽太くんの家まで送っていくね」とマリカは最寄り駅の方向に歩き始めた。

 俺たちはふたりとも世田谷区内に住んでいたけど、俺は渋谷区寄り、彼女は川崎市寄りに家があった。

「でもそれじゃ、マリカさんには遠回りになっちゃうし……それに、家に誰もいないから俺はまだ時間、大丈夫だけど……」

 俺は重い足取りで彼女の後ろを歩きながら、動きを止めない彼女のパンプスに視線を落としたままつぶやいた。彼女には、聞こえてないかもしれないと思うくらい小さな声だった。

 それでもマリカの耳には届いていたようで、足を止め俺に振り返ってまた息苦しくさせる笑顔を浮かべた。

「今日、とっても楽しかった。なんか、今思うと、私ばっかり夢中で話してたみたいで恥ずかしいけど……ちょっと声が変になってるかも」

 マリカは右手でのどを触りながら、小さく2回咳払いをした。

「私が何を話しても、陽太くんが興味津々で聞いてくれるから、調子に乗っちゃったみたい」とあどけなく微笑んだ。

 俺は相変わらずマリカの足元に視線を落としたまま、なんとか自分の気持ちを言葉にして伝えなきゃと焦っていた。

「なんか……マリカさんと話してると、俺の周りの世界の色が違って見える気がするんだ。今日、俺もすっごい楽しかったです。ほんと、会ってくれてありがとうございました」

 マリカは嬉しそうに天真爛漫な笑顔を見せた。

 俺は彼女の表情に見とれながら、この人は一体何種類の笑顔を操れるんだろうと疑問に思った。

「歳の差を感じない、とっても仲良くなれそうな友だちに出会えたみたいで嬉しいな。陽太くん、もしよかったら、また会って話そうね。ご飯食べに行ったり。ね?」

 マリカは俺の様子をうかがうように、右に少し首を傾げた。

 俺はわずかに頭を動かして頷き、重い足を前に進めて歩き出した。

 今日はもう終わりだけどまたこの人に会えるんだ、と思うと少し心が軽くなった。

 何が、いつも通りのターゲット、だ。俺は何もわかってなかった。この人は全く別だ。特別だ。別格だ。

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