カイザーは輝く勇者の剣へ手をかけた。見る間に能力値は下がり、スキルもまた失われていく。当然だ。なぜなら彼は魔王であり、剣に備わった聖なる力は呪いの毒なのだから。しかし、それをおしても為さなければならない理由があるのだ。そう、現代の勇者が失い果てた正しき勇者スピリットを復活させ、自分がそれを継ぐという志が——!
冒険を彩るものは道中襲い来る艱難辛苦となるわけですが、冒頭でカイザーさんが魔王の力を全部棄てる……スタートへ大きな苦難を置くことにより、彼の冒険をいきなり盛り上げてくる構成はすばらしい。しかもその志がライトな筆運びで綴られていく物語の芯として機能し、引き締めているのですから痺れます。
そしてキャラクター性もいいのですよ。勇者オタクで拘りも強いカイザーさんや、勇者になれなかった同行者ルークさん、他の登場キャラの複雑な心情が、エピソードを輝かせている点は見逃せません!
倒される存在であるはずの魔王が勇者としてなにを為し、成すものか? 目が離せません!
(新作紹介「カクヨム金のたまご」/文=高橋剛)